比較住宅政策研究会 議事録

 

日時 :2003年10月30日(火)午後7時00分〜9時00分

テーマ:21世紀へ、国土、経済、土地不動産の構造的転換:長期的に見た土地不動産市場、資産デフレの方向

報告者:長谷川徳之輔氏(明海大学不動産学部教授)

会場: 東京都立大学同窓会 八雲クラブ

出席者:海老塚 良吉、小場瀬 令二、若松 由佐子、小杉 学、横尾 克美、山下 恒夫、八田 秀夫、水津 まき子、木原 淑行、竹田 智志、矢吹 文雄、土山 良一、菊 池  武、青木  弘、小田 憲謙、萬羽 敏郎、笹川 和郎、前田 昭彦、近藤泰幹、関川 秀雄、渡辺 喜代美、菊池(計23人)

 

報告

20世紀の様々な経済指標の50年間、100年間の変化見て、今後の動きを考える。これまでは、経済成長が進み、人口が大都市に集中し、県庁所在地から東京までの移動時間が劇的に短くなるなど、大きな変化があったが、今後は大きな経済成長は望めない。

・地価は投機により異常に高騰したが、1990年当時の専門家12人のうちで、10年後の下落を予想したのは少なかった(石井勝利:上がる、大野幸一:同じ水準、大野二朗:上がる、蒲池紀生:上がる、佐藤美紀雄:上がる、鈴木徳彦:上がる、竹内宏:実質で3分の1に低下、角田勝司:上がる、坪田隆宏:上がる、名東孝二:下がる、長谷川:下がって当たり前、前川俊一:下がるとは考えられない。週刊読売199078日号)

1989年に東京区部の地価下落が始まったときに、ギヤチェンジを早めに行えば、今日のような事態にならなかったであろう。日本では多くが投機に参加したために問題を深刻にした。海外では90年代前後の土地バブルは一部の投機家により引き起こされただけであったので2,3年後には解消できている。

21世紀はバブル期の国民的な負債を、どう分担して返していくか考えなければならないが、どれだけのロスがあるのか、はっきりしない。等

討議

・バブルの時期に将来に問題が出ることを予測できた技術者等はかなりいて、たとえば、本四公団の技術者や道路公団の技術者は交通量予測から容易に今日の赤字を予想していたが、組織の中で発言ができなかった。正確な情報を開示できないことが日本の問題を深刻にしていて、それは現在も続いているのではないか?

・国民にとっては正しい情報は問題を回避して利益になるが、組織人は組織にとっての利益を第1優先し、数値を適当に操作して組織の求める予測値を専門家がだすのはやむをえない。人々が期待する方向と異なった悲観的な予測を行うことは、だれでも避けたいことである。勇気を持って正しい主張をできる専門家はまれである。

・戦後先進国の政策体系には、二つの特徴がある。一つは、ケインジアン理論で、1950年位から従来の財政均衡論を脱した政策構成が可能になった。福祉社会の実現は、この理論によって実行に移された。もう一つの特徴は、インフレで、各種の中期計画作りは、インフレを前提に行われた。趨勢法による限り他に説得力を持つ方法がなかった。バブル当時も同様で、上昇する傾向を下方に推計することは、テクニカルにできなかった。日本の政策面における時代的な画期は、オイルショックの時と90年代の始め。オイルショックの時は、日本の切り抜けの見事さに世界は驚いた。(ジャパン・アズ・ナンバーワン)また、80年代の終わりに各種の今日的な政策検討が始まっている。少子化対策のエンジェル・プラン、高齢化社会のゴールド・プラン、財政投融資制度の再検討等がそれである。55年体制の終焉で政策の実行は行われることがなく、その故にこの10年を「失った10年」という。(横尾氏)

・アニメの輸出額が鉄鋼の輸出額の3倍になるなど、日本はもはや建築や技術などの経済が成り立たない新しい時代になっているのではないか。

・安い労賃の途上国に工場が転出して入るが、国内の技術はいまだ健全で、重要性は失われていない。

・資産が減っているから負債も減って欲しい。江戸時代のような徳政令はないのか。

・超インフレを起こして負債を消すような荒治療はできない。担保額よりも土地価格が下落して処分がままならないとして放置するのではなく、利用できる金額で処分して損失を明確にして損金処理を行い、土地を有効に利用するほうが良い。土地の価格が下がれば、住宅等に対する実需は根強く、経済も回復できる。

・商業の床賃料は世界並み水準なのに分譲価格は3倍と高い。将来の含み益を見込んで日本では土地価格の水準がまだ高くなっている。

・米の減反政策の対象となっている耕地面積は、既存の宅地面積と同じ広さであり、今後は世帯数も減少することからどうかんがえても土地はあまってくる。実際に利用できる地価水準まで下げて中心市街地の活性化等を行ったほうが、予想した価格で処分できないのでそのまま未利用で放置しておくより良い。売買できないなら定期借地等で利用しても良い。

・地価が下げ止まり、今後はゆるやかに上昇することを産業界や国民は望んでいるために、下落を予想することは発言しにくい状況にある。等

(文責:海老塚 良吉)