比較住宅政策研究会議事録

 

日時 :2004年2月23日(月)午後7時00分〜9時00分

テーマ:建築紛争の視点から都市計画、建築基準法の現状を考える

報告者:日置 雅晴氏(キーストーン法律事務所、弁護士)

会場: 東京都立大学同窓会 八雲クラブ

出席者:海老塚 良吉、若林  祥文、亀村 幸泰、横尾 克美、松岡 勝博、岡本   章吾、成岡 茂、大串 聡、畑川義勝、山本 理、山口 邦雄、佐々波 秀彦、若松 由佐子、大本 圭野、梁瀬悦司、高津充良、保坂 公人、司波 寛、岡井 有佳、米野 史健、井上 由美子、木内 望、佐藤 景洋、神谷 裕子、中尾 唯史、瀬田 史彦、八田 秀夫、寺澤 秀忠、篠原みち子、井澤 寿美子、吹抜 陽子、新田目 夏実、西河 哲也、北村 ともや、大鹿 桃子、小玉 徹、大熊 喜昌、泉 宏佳、河崎 恭治(40名)

 

【報告】

 弁護士を始めて20年になりますが初めから建築紛争と関わってきました。今まで経験した事例の報告から建築紛争の実態を見ていただきたく思います。

 建築紛争とは合法の外見を持った環境侵害といえます。建築に対する規制として建築基準法が制定されていますが、建築基準法は技術的側面の規制であり、建築計画に対して現実的な規制が出来ない部分があります。建築基準法のあり方を問うために行政訴訟という手段が有りますが今のところ原告不適格の判断となってしまい、建築紛争を解決する的確な手段とはなりえません。

 近年問題となっているものに地下室を有効活用したマンション建設の建築紛争があります。地下室マンションが問題となるのは建築基準法が現実的な問題にそぐわない部分があるからです。たとえば、平均地盤面という基準がありますがこれは建築側の設計方法で手加減が出来てしまう基準です。この為、高さ規制がある地域でも5〜7層建ての建物が建ってしまいます。さらに共同住宅の事業を行う建物では平成6年の建築基準法の改正により地下室部分が全体の1/3まで容積率の規制に対して不算入になりましたから建築する側は地下室にするメリットが増えたわけです。これに共同住宅の共用部分は容積率の規制に不算入ですし、車庫部分の容積率に算入の緩和からその地域の本来の規制に対して1.8倍もの建築が可能になります。たとえば地上3階地下4階建ての建物が建ってしまいます。敷地の形状から傾斜地の敷地では建築基準法上地下の車庫であっても道路からそのまま入ることが出来ます。また、平均地盤面という規制ではマンションの周りを雍壁で囲い地盤面を確保することで近隣の環境へ影響が大きい建物の建築が合法になります。

 建築紛争は建築側が建築基準法をくぐり抜けるときによくおきます。建築基準法の問題は一つに建築基準法の判断は敷地単位であること。二つに敷地を分けることで規制に適用方法が変わってしまうこと。三つに日影規制という規制は個別にかかる規制であることがあります。

 社宅跡地の事例では、道路から20Mまでは近隣商業地域の指定、20M以上奥は第1種低層住居専用地域の規制があり、跡地は両方の規制がかかっています。この場合計画地の面積の過半にかかる規制が提要されます。事業主は効率よく事業を行うために奥の一部跡地であった敷地を売却し、計画地の規制が近隣商業地域となるようにして事業を行いました。

 分譲地では一宅地であれば適法でも分譲地全体で見るとその区域の日影規制を大きく超えて近隣に影響します。木造3階建ての4~6棟が建つミニ開発ですが写真で見ると建物が密集して建ち壁のように見えます。

 住居であっても日照は保障されません。商業地域では日影規制がありません。東京都千代田区は住居系の地域でも2箇所を除き(皇居と靖国神社)日照は保障されません。そのような場所でもマンションが建ってしまいます。上野の商業地域の例ですが隣棟間隔が1Mだけで12階建てが建ってしまいます。建ってしまった後は携帯電話の電波も届かない環境になってしまいます。

 建築基準法が現実の問題に対応できない結果として低層の住宅が建っている地域で隣に高層ビルが建ってしまう現実があります。日本では原則的に高さに対する規制はありません。家の隣に付近の環境にそぐわなくても何階建てでも建ってしまいます。どれだけ巨大なビルでも自由に建ちます。東京都世田谷区の事例です。30階建てのワンルームマンションがたっています。行政はこの場所に30階建てのマンションを立てる業者が出るとは思っていなかったため適切な対応が出来ませんでした。千歳烏山の昭和女子大学の跡地でも30階建て超高層の共同住宅が計画されています。この経験から世田谷区では30mと25mの高度地区による高さ規制を行います。

 行政の対応にも問題があります。地域でまちづくりの活動を行っていたとしても行政が一貫した対応を採らなかったため超高層ビルが建ってしまいました。東京都新宿区神楽坂では平成6年から地域で「まちづくり憲章」を制定しました。新宿区のマスタープランでも現在の町並みに配慮したまちづくりをうたっています。平成9年には地域でまちづくり協定を締結しています。平成10年には町並み環境整備方針を制定しました。その場所で31階の共同住宅の計画が持ち上がりました。この計画には現状ある区道を廃止して計画地を確保しています。行政が地域の街づくりを尊重して区道廃止の取り扱いについて慎重であれば問題の結末は違ったのでしょうが、縦割り行政のためか事業者の申請とおりに区道は廃止されてしまい結果として31階が26階になっただけで超高層が建ちました。この計画地は道路拡幅計画線があるため今後道路が拡幅された場合建物は既存不適格となり同じ規模での再建築が出来ない問題のある建物でもあります。

 地域の活動が乱開発を抑制した事例を報告します。

 旧軽井沢に100戸のマンション計画がおきました。付近は一敷地が1000坪の戸建て別荘がならぶ良い環境が守られた地域です。そこに3階建てのマンションを建てる計画が出て環境を守るため計画を止めさせる運動がはじまりました。区域の容積率規制は200%ですから合法的に建ってしまうわけです。環境を守るために建築協定を策定して計画に対して抑制力を持たせました。知事が田中知事になっていた効果もあり建築制限として2階建て以下の建築協定を策定できマンションの計画は中止となりました。その計画地は戸建ての分譲の事業が行われました。

 国立市であった明和のマンション事件は大きく報道されましたのでご記憶の方も多いかと思います。東京海上の事務所ビル跡地に14階建てマンションが計画され、計画変更の紛争が起きました。計画地付近は並木より高い建物は無く14階建ての計画は並木を大きく超えるもので近隣側は受け入れられないものでした。明和側は並木と調和した建物と主張しています。東京地裁の判決では上部を撤去する判決が出ましたが現在控訴審を行っています。

 名古屋市白壁町は町並み保存地区に指定されていて古い武家屋敷の残る街並みを住民と行政が一体で進めています。住民は門・塀を残しながら低層の共同住宅を建てるなど地域に配慮した立替を進めています。その地区で8階建て高さ30Mのマンション計画が持ち上がり計画変更を求める建築紛争となりました。住民は計画変更を求める仮処分申請をおこし名古屋地裁は今までの街づくりの実績を認め付近の環境とそぐわない高さ20Mを超える部分の建築をしてはならないと命じました。

 東京都立大学跡地に大規模構想分譲マンションの計画し、現在高層部の工事差止請求を起こし係争中です。ドイツなどでは大規模な敷地の開発はMプラン・Sプランなど許認可制度の審査を経て事業を行います。審査は近隣と合意がないと許可が下りません。都立大学などの計画でも許可を経て事業が行われていれば問題は起きなかったのではないでしょうか。ヨーロッパで出来ることがなぜ日本では出来ないのでしょうか。

 戸建てと共同住宅が複合して存在する街づくりに無理があり問題を起こす原因となっています。地域での土地利用と大きく乖離した開発が起きると建築紛争となってしまいます。それを防ぐ手立てが必要です。

【質疑】

東京都は財務的に厳しく資産を高く売却したい事情がある。売却時に計画条件を厳しくすると高く売れなくなる。ただし、都立大の問題が起きた以降の売却には厳しい地区計画をかけて抑制をかけている。

一種低層住居専用地域でも総合設計・再開発・地区計画を併用した高度利用が可能。

建築審査会を通すと、どんな計画でも通ってしまう。審査会は技術的審査が主で環境に対する審査は不明な点を感じる。(綜合設計のケース)

建築審査会の詳細は知らないが、近隣ともめた場合、若干高さを抑える等の対応をしている。

総合設計は基本的に開発誘導型の手段。

総合設計のあり方は公共にとって貢献する仕組みになっていないのではないか。

国の基本方針は建築基準を緩和する方向にしか向いていない

国土交通省は「地区計画という道具は用意している。使わないのは地方の責任」と言う立場。

基準法が抱えている矛盾を国は正してほしい。

地方は地域にあった行政対応を行い街並みに配慮して高度規制を行う必要がある。

建築審査会に現実的な対応が出来る人材を確保して運用する必要がある

開発に対しては事前審査を行い許可制度として運用するべき

積極的な街並み保全の方法論が必要、たとえばダウンゾーニングを積極的に取り入れるなど。

府中の森での事業計画では500戸の分譲住宅が計画され、人口が約2000人一気に増えてしまい、地域での受け入れ対応が伴わないなど社会問題が起こる。開発を地域が受け入れられるような計画に誘導する必要がある。

住民と行政が関わるチェック体制が必要。地域個別の事情に沿った開発に修正させる。

住居系地域での容積率200%規制に問題がある。実情に合わせて100~150%の規制とする。まずダウンゾーニングが必要。

土地の購入資金が動いたあとで開発を抑制しようにも無理がある。地主・事業主は投資に見合った開発を行うので、近隣の意向に沿った計画になりにくい。

公的資金が入っている会社は再建計画に沿った事業計画を行うので地域にそぐわない無理のある計画になってしまう。優良な事業者だけ残すことも重要、等

(文責:寺澤秀忠