国際協力研究会(ブノンペン、低所得者層居住地域の住環境改善事業)講演会要旨

 

1. 日 時:平成12年8月14日(月) 18:30〜20:30

2. 場 所:日本住宅協会会議室 千代田区麹町3-2 麹町共同ビル3階

3. 講演者:池谷啓介氏(元アーバン・リソース・センター・スタッフ)

4. 出席者:海老塚、保坂、佐々木、田中、吉岡、松本、藤原、ショウ、本田、鈴木、小川、森下、高橋(計14名)

5. 内 容:カンボジアの首都、プノンペンでは、貧困地域の住環境改善のために、

再定住プロジェクトや地域内環境改善型プロジェクトが、地域住民の参加の下でCB

O、NGO、国連組織等により実施されています。二年六ヶ月の滞在で経験したこ

と、考えたことを報告。

6. 講演内容:ブノンペン、低所得者層居住地域の住環境改善事業

7. 講演経過

(1)海老塚氏挨拶(研究会主催者)

(2)池谷氏説明

(3)自由討議

8. 講演内容(質疑応答を含め、一部編集)

(1) カンボジアという国(概況)

http://www.jica.go.jp/country/Index.html

教育面への支援は少なく、国家予算の2%程度、一方、軍事予算は50%以上、学校はお金を払わないといけない。(行政と住民組織で交渉し、住民組織の一員ならただで学校へいけるような運動もおこなわれだした。)

 

(2) 首都ブノンペン

ホームレスが徐々に増加、貧困の格差が拡大中、そんな中、行政による住宅政策はない(ようやく昨年、建設省ができた)。なお、ホームレスにはタイプがあり、「ずっとホームレス、季節労働者、近郊からの商人」からなる。スラム街は火事が多く、500棟が全焼するような火災もよくある。

 

(3) 都市貧困地域

都市貧困地域は、湿地帯、線路沿い、屋上、路上、運河沿い、水上、郊外に広がる私有地、公有地の区別はない(土地の登記制度がなく、現在、フランス等の支援により土地法を策定中である)。公務員の給料は20ドル程度(副業、副収入が必要不可)で、消防士はお金をもらわないと火を消さないといったことも多々あるようだ。

低所得者層の家族(6人程度)でも生活費として月150ドル程度必要。スラム居住者の正確なデータはないが人口の2〜3割をしめる。彼らは、難民または農村からの流入層、現在は潅漑により米がとれなくなり、農村からの流入者が増加している。

 

(4) NGO、CBO、UN、関係機関

<CBO>

solidarity for poor federation(supf)

住民による1組織だったが、組織のトップ個人に権利が集中しないよう分割され、現在は、7区、100コミュニティからなる。なお、行政からもオブザーバーとして参加している。

 

<NGO>

urban resource centre(urc)

常勤3人、ボランティア10人(学生で建築学、社会学を専攻)で組織され、オックスファーム、デンチャー(デンマーク)が人件費等を支援している。住宅建設を中心とするが、多種多様な支援をし、地域の人をスタッフに登用、コーディネイターとして育てている。

池谷氏はACHR(Asia Coalition for Housing Right)を頼りに、カンボジアに赴き、この組織の発足当時(97年4月)より参加し、イギリス人の技術者とともにアドバイザーとして今年4月まで従事してきた。

urban sector group(usg)

コミュニティオーガナイザーを中心とした団体。

cambodian appropriate thchnology development groop

建築資材(ローコストマテリアル)の普及を中心に活動、学生により運営されている。

URBAN developmento fond

市、住民組織、NGO(ACHR等)、SHIで出資し、結成された。住民組織が出資することにより、委員会に住民の意見をとりこめる(タイUCDOの方式を参考に発足)。基金は5万ドルからスタートし、現在は10万ドル程度である。建設資金として上限額400ドルを低利で貸与している(各個人の総建設費用は1000ドル程度)。現在は、資金が枯渇して、新規の貸し付けはしていない。

 

<UN>

united nations centre for human settlements(habitat)

国連のこの組織がなにかやるときの行政の実質的な窓口。行政の対応(政治的な問題)を気にしすぎるため、なかなか、事業は進んでいない。

 

<GO>

miunicipality of phnom penh(mpp)

ブノンペン市都市計画局。残念ながら機能していない。

 

(5) 環境改善事業の事例

再定住事業

計画づくりは住民主体で、住民のおじさんたち(ホームレスのような人々)が市長、国連関係者に説明し、その行為が彼らに自信をつけ、自立を促す。(やればできるということがわかる)なお、事業としては、各機関が共同し、特に国連との連携が目立つ。ローンについては、各家族で計画をたて、設計、これに対してNGOがアドバイス(収入、実状に応じて)する。一連の作業はワークショップで行われる。ちなみに、家造りについて住民は詳しい。材料はちまたで使われているものが事業でも利用され、ブロックづくりが中心である(木材は高騰し、火事にもなりやすいため、利用されなくなってきている)。

 

地域内改善事業

事業のきっかけとして、排水整備、湿地帯における橋(板を渡した歩道)造り、どぶさらい(実はもっともインパクトがある)からはじめ、住民が主体となって動いてもらうことが重要である。特に問題のある地域では、行政が違法性を認める訳にはいかないため、なにも進まなくなっている。問題のある地域ほど立ち後れるのが実状である。

移転先ではインフラ整備がなかなかできない(NGOの資金不足のため)。また、建設しても、衛生上の問題も残される。(例えば、井戸は深さ35m、ハンドポンプ式で建設されるが 将来、周辺の便所の水がしみ、汚染される心配がある)ちなみに、井戸の形は○より□がいい。理由はそれぞれの角を違う理由で利用できるから

 

イメージ

 

  洗い場

炊事 □ 水浴び

  飲料

 

(6) その他、ブノンペンでの今後の展望

社会主義であったため、土地、建物の登記制度がない。ただ、利用権があり、これが権利に変わっている。電気は仲介業者が介入するため、数倍になる、水道も同様。貧困地域ほど高くなる。様々な問題が山積みされている。少しずつ改善されてきているが時間がかかるだろう。今後は、草の根レベルとCITYレベルでの開発をうまく融合させていくことが必要である。また、インフラはコミュニティコントラクト方式で整備されていくだろう。

 

(7) 感想

居住環境改善のポイントは、@住民が主体となること、A住民を誘導するコーディネイターの育成、B低利のローンなど、貧困者層の再定住支援策、が重要。また、移転先のインフラ整備(上下水道、電気など)も必要。現在、スラム居住者は、さらに貧困になるシステムにおかれている(例えば、水道、電気が行政より直接供給されないため、中間業者により高騰、また、非衛生は病気を呼ぶ)。居住環境事業も大切だが、山のようにいる貧困者を全て対象にはできない。よって、現状の様々な問題を解決し、少しでもスラム街の衛生条件等を改善していく必要がある。日本が援助することを武器に、既存の貧困地域に対して、水道、エネルギーを供給するよう相手国政府に要求することは、やはり現実的ではないのであろうか。違法占拠地域のインフラを整備、代わりに地代を徴収といったシステムづくりが必要だと思った。

 

記録者:田中 健紀

 

関連Web site

achr-japan :  http://www3.itakura.toyo.ac.jp/projects/achrj/

achr:  http://www.achr.net/