比較住宅政策研究会 議事録
日時: 2004年12月7日19時00分〜21時00分
テーマ: 北京における都市開発事業と居住環境の変化
報告者: 吉富 拓人氏(横浜国立大学大学院国際開発研究科博士課程)
会場:新宿アイランドタワー19階 都市再生機構 1902会議室
出席者:海老塚良吉、泉宏佳、森田芳朗、横山譲、秋田典子、大場明夫、奥住金衛、
小山雄資、李暉、設楽知弘、張国玉、塩月えり、大本圭野、二木憲一、新井一弘、徳永達巳、森岡久、井出千晶
(記録 井出、修正 吉冨)
【質疑】
質問1
立ち退きに対する抗議は、全国的に組織だって行われているのか。また立ち退きに関する抗議にNGOのような組織がバックアップをする事例は存在するのか。
答え1
立ち退きに対する抗議には組織的な繋がりはなく、各地域で単発的に行われている。立ち退きを拒否している世帯がまとまって危改弁公室という半民半官の開発推進組織と交渉しているケースを実際に見たが、そのようなことが一般的に行なわれているわけではない。
また、NGOなどがからんで地域横断的に組織化されているというような話は聞いたことがない。立ち退き訴訟に関わった上海の弁護士が外国人と接触したことで国家機密漏洩罪の罪に問われたというような事例もあり、その辺は慎重にならざるをえない状況である。
質問2
公共事業における立ち退き、立ち退きに対する補償はどのように行われているのか。
答え2
基本的な方針は同じだが、詳しい規定については不明。
(捕捉:「結合型危改事業」とそれ以外の危改事業では、立ち退き補償規定が異なる。「結合型危改事業」のほうが住民の負担は大きい)
質問3
レジェメ図3における商品住宅に居住する世帯数は、都市戸籍取得者の数字から割り出したものか。また同頁脚注7における商品住宅に関す数値は、賃貸されている住宅も含んだ数値か。
答え3
図3の数字は、北京市都市戸籍を保有する住民のみのデータである。
脚注7の数値は、商品住宅には賃貸を含んでいない。私有賃貸住宅は2003年で2.0%となっている。
質問4
四合院は何故あのような形となっているのか。
答え4
詳しくはわからないが、もともとは農村の居住形態であったらしい。
質問5
レジェメ3頁の「結合型危改事業」は北京市特有の政策か。またこの事業が中国全土で実施される可能性はあるのか。
答え5
1998年の住宅の現物支給廃止は全国的な政策であり、他の都市も基本的な方針は同じだと考えられるが、「結合型危改事業」に関する法規は北京独自で制定している。
また他地域での実施に関しては、基本的な方針に大きな違いはなく行われていると思われるが、地方ごとにそれぞれ独自の法規を制定して再開発事業を展開しているようである。
質問6
買いたい者同士が集まって買う、協同組合のようなタイプの住宅は存在するのか。
答え6
住民と政府、職場が参与する「合作社」方式という形態で住宅が建設された例もある。
(捕捉:1988年以降、北京では菊児胡同など60以上の地域で合作社方式による住宅建設が実施された。)
質問7
開発を実施しているデベロッパーはどのような主体か。
答え7
国営企業だけでなく外資系や私営企業も参入しているようだが、下請けの企業まで含めるとどのような勢力図になっているのかは不明。上海における開発業者は外資系企業が多く、下請けに現地企業を使って開発を行っている。
質問8
高層アパートは持家か。また持家を賃貸に出すような事例はあるのか。
答え8
基本的に持家だが、賃貸に出す人もいる。立ち退きをした場合に関しては、戻り入居した家を賃貸に出す事例もある。ちなみに市街中心に近い所では、2部屋の住宅が月3000元ほどで賃貸できる。
質問9
政府は持家を推進しているが、固定資産税の徴収はあるのか。
答え9
土地は国のものであり、住宅購入者は土地の使用権を保持するスタイル。購入者は最初に入居するときに税を払うが、固定資産税ではない。固定資産税については、現在設立が検討されている。
質問10
北京に働きにやってきた都市戸籍を持たない人々(外地人)はどのような住宅環境で生活をしているのか。
答え10
非常に狭い部屋に複数人が同居する場合が多い。建築業で働く人たちは、現場に建てられたプレハブ住宅で生活するが、いずれにしても居住条件はよくない。
質問11
中国には都市戸籍と農村戸籍が存在するが、後に戸籍の種類を変更することができるのか。
答え11
北京や上海のような大都市では、農村戸籍から都市戸籍への変更は制限が厳しく難しい。政策的に金持ちや学歴の高い人を優先して戸籍の転換を許可している。一方、中小都市では戸籍制度改革が進んでおり、都市戸籍の取得は以前より容易になっている。
※質疑中の補足は、質疑応答の際には不明だったが、その後明らかになった事項を報告者が提出したもの。