諸外国での賃貸住宅政策の動向と展望

 

海老塚良吉(国際建設技術協会調査部長)

 

持ち家所有の場合と異なり、まとまった資金を必要としない賃貸住宅は、一般には所得の低い階層に適した住宅であるが、所得が高い階層の世帯の場合でも、移動性を重視して賃貸住宅が選好される場合がある。従って、持ち家率が高いことが必ずしも所得水準の高い国とは言えない。しかし一般には、これまでの諸外国の住宅政策は自国の持ち家率を高める工夫をしてきている。

賃貸住宅は、住宅を所有して管理する家主により、民間の営利企業による賃貸住宅、民間の非営利企業による賃貸住宅、地方公共団体や公社等の公的組織による賃貸住宅に大きくは区分される。さらには、持ち家所有と賃貸住宅の中間的な所有形態としてのイギリスの半賃貸半分譲(shared ownership)のような特殊な所有形態もあり、日本では持ち家の形態の一つであるコーポラティブ住宅の場合も、海外では共同所有をしているコーポラティブからの借家という意味で賃貸住宅としての性質を含む。勤務先が雇用者のために供給管理する給与住宅も賃貸住宅の一種であるが、諸外国では数が少なく、日本のように統計数値として出されるケースはほとんどない。

以下では、海外を先進国、中進国、途上国と概略区分して代表的な8カ国の賃貸住宅政策を概観する。1980年代以降、先進諸国の住宅政策はイギリスの公営住宅払い下げ政策が代表するように、持ち家化、民営化が進み、公営の賃貸住宅は減少傾向にある。開発途上国でも政府が直接に賃貸住宅を供給するよりもイネーブリング戦略として民間の住宅供給に委ねて、政府はそれを補佐する傾向にある。

 

1 主要先進国での賃貸住宅

 

住宅ストックに占める持ち家の比率は、主要先進国では次第に大きくなりつつあり、従って賃貸住宅の比率が小さくなっている(図―1)。アメリカの持ち家率は、1945年には50%程度であったが、郊外に1戸建て持ち家が大量に建設されて、2000年には67%にまで高まっている。イギリスの持家率は1945年には10%程度であったが、1950年には30%に増大し、その後も順調に増大して、1980年代は公営住宅の払い下げで急増し、2000年にはアメリカと同様の67%にまで増大している。フランスの場合、1960年代初めには持ち家率が40%であったのが、2000年には55%になっている。ドイツの持家率は1960年代は35%程度であったが、2000年には40%を越えるまでに微増であるものの増加した。

 

図―1 主要先進諸国の持ち家率の推移

 

出典)資料1,p354

 

賃貸住宅のストックが減少する中で、公的賃貸住宅の全住宅建設戸数に占める比率も減少している(図―2)。1950年には全住宅建設戸数に占める公的賃貸住宅は、イギリスの場合は80%(公営住宅等)、ドイツでは60%(社会賃貸住宅)と半数以上となっていたが、2000年には両国とも20%程度と急減している。フランス(HLM住宅等)の公的賃貸住宅は、1960年代は30%程度にあり、増減を繰り返しながらも1993年には30%の水準を維持していたが、その後は20%を切るまでに減少している。アメリカの公的賃貸住宅(公営住宅)はこれまで一貫して10%以下の少ない建設であったが、近年は新規の追加的な建設はなくなり、むしろ取り壊されることでストック数の減少が始まっている。

 

図―2 全住宅建設戸数に占める公的賃貸住宅の比率

 

 

出典)資料1p367

 

1−1 アメリカ

アメリカの2001年住宅調査によれば、居住者のいる住宅戸数1600万戸に占める賃貸住宅数は、3,400万戸(32%)である。この借家の内訳は、公営住宅(Public Housing)が186万戸、他が民間借家であるが、政府の家賃補助を受けている世帯が211万世帯ある。アメリカの公営住宅は、地方住宅公社(local housing agency)が連邦政府の財政的助成を受けて運営しているが、その管理戸数は減少傾向にあって2年間に4千戸余りが減少した。低所得者向けに新規に賃貸住宅を供給するのは非営利の民間組織であるコミュニティ・デベロップメント・コーポレーション(CDC)で、年間2〜3万戸を供給していて、管理するストック数は30万戸余りと推定されている。

 

 

          図ー1 住宅戸数 (単位:千戸)

 

 

 総住宅戸数 119,117

 

 季節住宅  3,078

 

 

 

 

 居住者あり 106,261

 

 持ち家  72,265

 借家    33,996

 

 

 

 空き家    9,777

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新規建築中   6,817

 モービルホーム 8,876

 

出典)American Housing Survey for the United States 2001 - Current Housing Report-U. S. Census Bureau

 

      表ー1 借家の内訳:公営住宅及び家賃補助住宅 (単位:千戸)

 

 

借家(居住者あり)

 

   公営住宅

   政府の家賃補助のある借家

   その他の所得証明が必要な借家

   家賃補助なしの借家

    家賃規制あり

    家賃規制なし

     家主により家賃割引

     家主により家賃割引なし

     家主による家賃割引不明

    家賃規制不明

   家賃補助関係が不明

 

    1,861

    2,105

    2,343

    2,7423

     710

   26,329

    1,877

   24,322

    130

    383

    265

出典)図1に同じ

 

1−2 イギリス

 

イギリスの民間賃貸住宅は244万戸(全住宅の約10%)、地方公共団体及びニュータウン開発公社により管理されている公的賃貸住宅は356万戸(同14%)、ハウジング・アソシエーションにより管理されている公的賃貸住宅が156万戸(同6%)である(図― )。イギリスでは地方公共団体及びニュータウン開発公社により管理されている公的賃貸住宅の居住者への払い下げとハウジング・アソシエーションへの移管が急速に進んでいる。ハウジング・アソシエーションへの移管には入居者の半数以上の賛成が必要であるが、20024月の居住者投票では、バーミンガムの公営住宅居住者は移管反対を選択し、グラスゴーでは公営住宅居住者の半数以上が賛成してハウジング・アソシエーションへの移管が行われた。イギリスの持率は69%と増加傾向が続いている。

 

図―  イギリスの所有関係別住宅戸数(2000年)

 

出典)資料1,p356

 

イギリスでは世帯増に対応して住宅の供給を増やすことが必要とされ、賃貸住宅に対しても既存の住宅の改善を進めるために、民間の資金を導入して整備を行おうとしている。そのために、公営住宅を一括してハウジング・アソシエーションに移管する大規模任意移管事業(LSVT)を進め、改修に不足しがちな公営資金だけではなく、民間資金の利用を図ろうとしている。また、住宅PFIを試行的に導入して公営住宅に民間資金と民間のノウハウを取り入れようとする事業が全国の8地区で進められている。

 

1−3 ドイツ

 

ドイツでは、持ち家率が39%と先進諸国の中では最も低く、民間賃貸住宅が53%、社会賃貸住宅(第1促進住宅)が8.3%となっている(図― )。多くの国民に賃貸住宅が選好されていると言える。但し、賃貸住宅が多いのは、ドイツの世帯規模が小さいこととも関係していると思われ、2000年には単身世帯が全世帯3,812万世帯の36%を占め、2人世帯が33%1人、2人世帯で7割を占めて(資料1,p97)、これが賃貸住宅の多い要因の一つと考えられる。

ドイツでは1990年までは税制優遇を受けることのできる公益住宅企業が存在し、社会賃貸住宅の主たる担い手となっていたが、住宅の公益に関する法律が廃止されて、公益住宅企業の税制上の優遇策は廃止された。そして、20021月には、50年間にわたり住宅建設促進の基本法であった第2次住宅建設法が廃止され、代わって社会的居住空間促進法が制定された。社会住宅の性格は一定期間変更しないで、原価や賃システムの廃止という住宅経済界の要求には応じないで引き続き家賃の安い住宅は残すものの、新法では、住宅市場を活用し、自力では住宅の手当ができない世帯(低所得者、多子世帯、高齢者等)に目的を特定して住宅政策を実施することとなった(資料1,p115)。

 

図―  ドイツの所有関係別住宅戸数(1993年)

 

出典)資料1,p357

 

1−4 フランス

 

 フランスの持ち家率は53%であり、先進国の中ではドイツについで賃貸住宅の比率の高い国である(図― )。民間賃貸住宅は全住宅ストックの21%、公的賃貸住宅が18%HLM住宅が16%、その他の公的賃貸住宅が2%)となっている。

 

図―  フランスの所有関係別住宅戸数(1996年)

 

出典)資料1,p357

 

フランスでは、1993年以降社会住宅の新規供給が低迷し、1997年からその回復を図ることを目指したが、2000年の社会賃貸住宅建設は計画が70,000戸のところ実績は42,600戸にとどまり、1999年の実績である47,600戸、1998年の51,400戸を下回った(資料1,p149p156)。2000年の住宅建設戸数311,100戸に占める社会賃貸住宅の比率は13%である(資料1,p369)。フランスでは住宅予算の大半は住宅手当(持ち家と借家の両方を含む)として支出され、2002年予算の場合、74億ユーロの内、住宅手当が52億ユーロを占め、社会賃貸住宅建設に対する補助は5億ユーロを下回っている(資料1,p150)。

 

表― フランスの社会賃貸住宅融資実績

 

出典)資料1、p156

 

 

2 中進国での賃貸住宅

 

2−1 韓国

 

韓国の持ち家率は、1970年の71.7%から1990年には49.9%まで減った。これは、急激な都市化と世帯増加のためであり、1995年には持ち家率は53.3%と多少加し2000年には54.2%となっている。

韓国には賃貸住宅に独自の制度がある。賃貸住宅の多くは、チョンセと言われる形式で、住宅格の50%程度のチョンセ金を家主に頂け、2年等の期限を決めて住宅を借りる形態である。住宅所有者はチョンセ金を運用することによって益を得、契約期間が了するとチョンセ金を全額、無利子で借家人に返す。チョンセは全住宅の28%を占める。

毎月の家賃を支払う通常の賃貸住宅はウォルセと称され、15%とチョンセの半数程度にとどまる。

しかし、2000年後半からチョンセから保證金付きウォルセに変化する傾向が見られるようになった。これは、住宅抵当証券制度の導入等により住宅金融の貸出額が拡大されて、チョンセ金の必要性が減少し、また、低金利基調が持続する中で、安定的な收益が保障されるウォルセを家主が選好するようになったからである。2000年の人口住宅総調査の結果ではこのような変化がほとんど見られなかったが、2005年の調査ではチョンセの比率は減少すると思われる。

 

表―  韓国の住宅所有関係の変化

単位:千世帯、( )内は%

 

1975

1980

1985

1990

1995

2000

世帯数

6,754(100)

7,969(100)

9,571(100)

11,355(100)

12,958(100)

14,312(100)

持ち家

4,260(63.1)

4,672(58.6)

5,127(53.6)

5,667(49.9)

6,910(53.3)

7,753(54.2)

チョンセ

1,171(17.3)

1,904(23.9)

2,201(23.0)

3,157(27.8)

3,845(29.7)

4,036(28.2)

ウォルセ 

1,049(15.5)

1,231(15.5)

1,893(19.8)

2,173(19.2)

1,875(14.5)

2,118(14.8)

その他

215(3.2)

162(2.0)

350(3.7)

358(3.1)

328(2.5)

401(2.8)

出典)資料

 

1988年から1990年の2年間に住宅価格とチョンセ金は、50%弱上昇したが、1991年になって初めて住宅価格の下落が始まった。1990年以降1997年まで毎年60万戸の住宅が供給されたことによって、住宅の価格は下落傾向にあった。しかし、チョンセ金は住宅価格が下落しても上昇傾向を示した。経済危機の直後である1998年には住宅価格とチョンセ金は急落した。経済が回復するのに伴って、まず チョンセ金から上昇傾向に転じ、2002年には16.4%の上昇となり、首都圏の中大型アパートの場合は、30%を上回る高い上昇率を見せている。

 

表―  住宅価格およびチョンセ金の対前年増加率

単位:%

 

87

88

89

90

91

92

93

94

95

96

97

98

99

00

01

02

住宅価格

7.1

13.2

14.6

21.0

-0.5

-5.0

-2.9

-0.1

-0.2

1.5

2.0

-12.4

3.4

0.4

9.9

16.4

傳貰価格

 

13.2

17.6

16.8

1.9

7.5

2.4

4.6

3.6

6.5

0.8

-18.4

16.8

11.1

16.4

10.1

 

 

チョンセとウォルセを合わせた賃貸住宅約615万世帯の大半の540万世帯は、民間家主が供給管理し、状況によっては持ち家に変換される「非公式賃貸」住宅の居住者である。大韓住宅公社等が供給し、賃貸住宅として継続して管理する永久賃貸住宅は19万戸と数が少なく、5年後等に持ち家として転換が予定される公共賃貸住宅が38万戸を占めている。

 

表―   2000年の借家居住世帯の類型

単位:千戸、( )内は%

借家世帯

永久賃貸

50

公共賃貸

5

公共賃貸

社員賃貸

買入賃貸

非公式賃貸

6,154(100)

190(3.0)

79(1,3)

384(6.2)

35(0.6)

66(1.1)

5,400(87.7)

資料: 建設交通部

注:永久賃貸住宅とは、1988年から1993年まで供給された最低所得者のための賃貸住宅である。50年公共賃貸住宅とは、1993年から供給され、主に再開発借家人のための賃貸住宅である。5年公共賃貸住宅とは、5年賃貸後に分譲住宅にされる分譲条件付き賃貸住宅である。社員賃貸住宅とは、会社が5年賃貸後に分譲する住宅である。

買入賃貸住宅とは、賃貸を目的にする 個人や法人が賃貸する住宅であるが、期間は3年となっている。

 

 

2−2 香港

 

香港の人口は1951年に200万人強であったのが、2003年には679万人にまで増加し、3倍以上になった。この人口増加の原因は主に中国本土からの移民によるもので、世帯数は217万世帯(2002年)となっている。

住宅戸数は世帯数を上回る231万戸があり、民間住宅(大半が持ち家と思われる)が54%、公共補助付き分譲住宅が16%で、公営賃貸住宅が30%となっている。民間の賃貸住宅は統計数字にはないが、かなり少ないと思われる。

 

表― 住宅の所有関係(2002年)

                           単位:戸

公営賃貸

住宅

補助付分譲

住宅

民間

住宅

全体

684,500 (29.7%)

375,400 (16.3%)

1,245,800(54.0%)

2,305,700 (100.0%)

 

公的と民間セクターによる住宅の生産はここ数年において増え続け、2000/01年度にはピークとなり、10万戸以上が建設された。そしてこのうち半数以上は公営賃貸住宅が占めている。

 

表3:過去10年間における住宅建設戸数の変化

 

 

公営賃貸

住宅

補助付分譲

住宅

民営

住宅

合計

1992/93

 22 900

 16 000

 27 400

 66 300

93/94

20 300

25 100

32 200

77 600

94/95

24 400

4 000

28 500

56 900

95/96

14 800

21 500

22 500

58 800

96/97

15 900

16 900

15 100

47 900

97/98

18 300

15 300

25 100

58 700

98/99

10 500

23 700

21 700

55 900

99/00

31 900

21 100

35 800

88 800

00/01

56 300

34 300

25 700

116 300

01/02

33 600

7 100

21 700

62 400

合計

248 900

185 000

255 700

689 600

 

公営の賃貸住宅の家賃は、民間の賃貸住宅の半分以下であり、ニーズが高い。そのため政府は、近年では大規模建設を行って、入居申し込みを行ってから待つ期間を3年内に抑えることができるようになった。

 

表― 公営と民間賃貸住宅の平均家賃

 

 

公営賃貸フラット

(平方メートル当たりの

平均月額家賃)

民間フラット

(平方メートル当たりの

平均月額家賃)

香港島

   48HKドル

   176HKドル

九竜

48

136

新界

41

104

 

香港では、ここ3年間において、景気の後退にも関わらず、公共も民間セクターも共に住宅生産は順調である。これにより、資産価格は引き下がり、新設住宅の契約率は不振である。これに対し、政府は住宅政策全体の見直しを図り、新しい住宅政策の開始が200211月に公表された。その目的は資産市場を安定すること、国民の自信を取り戻すこと、政府の資源利用を合理化すること、そしてさらに重要なことは住宅市場における長期的な政府の役割を明確に決定付けることであった。この新しい住宅政策は、低所得者への配慮、資産市場における最小限の介入、そして安定した資産市場環境の提供という3つの主要な方針に基づいている。

 

 

3 開発途上国での賃貸住宅

 

 

3−1 フィリピン

 

フィリピンの人口は7650万人、住宅に入居している世帯数は1,530万世帯(平均世帯人員5.00人)で、全国で見ると持ち家率は71%となっている。残りが賃貸住宅であるが、家賃を払っている賃貸住宅が10%、家賃がなく、家主の承諾がある賃貸住宅(例えば親戚の家に無料で借家等)が13%、家主が無承諾の借家が1%となっている(表― )。マニラ首都圏では、人口は993万人、世帯数は213万人(平均世帯人員4.63人)で持ち家率は48%と半分以下となり、家賃を払っている賃貸住宅が32%を占める。

 

 

 

表−

住宅の所有・賃貸の状況

2000年)

 

 

(入居している世帯)

持ち家

借家(賃貸)

借家(家賃ゼロ,家主承諾)

借家(家主無承諾)

不明

全国

15,279

10,866

1,543

2,048

191

631

構成比(%)

 

71.1%

10.1%

13.4%

1.3%

4.1%

首都圏

2,133

1,026

687

238

71

111

構成比(%)

 

48.1%

32.2%

11.2%

3.3%

5.2%

 

 

 

 

2000年人口住宅統計調査

(単位:千世帯)

出典)資料

 

1世帯あたりの平均年収は14.4万ペソで、(1ペソ=約2.3)、首都圏では約2倍の30.0万ペソとなっている。住居費関係の支出は、全国では支出全体の15.1%を占めるが、首都圏では22.4%を占める。貧困ラインは全国平均で13,823ペソ/年・人と算定され、この結果、貧困ライン以下の世帯割合は33.3%を占めている。

首都圏隣接地域で持ち家の戸建て住宅では、敷地面積60から80u、35u程度の平屋建てがついて40万ペソ台というのが低所得者向けの相場のように見受けられる。中層住宅の分譲では、首都圏内の供給が主体で、国家住宅庁(NHA)が供給しているもので、床面積22uを25万から49万ペソ、国民住宅共済基金(HDMF)が直接供給しているもので床面積30u台を30万から50万ペソで売り出している。

所有者の承諾を得ないままその土地や建物に住みつく、いわゆるインフォーマルセトラーは、首都圏では約727万世帯で全世帯の342%を占める。その多くは自力で住宅を建設した持ち家であるが、収入を得るために一部を間貸しにするケースもある。

住宅政策としては、表― のような施策が実施されており、そのほとんどが持ち家に対する施策であって、賃貸住宅についてはほとんど対策がとられていない。住宅公団(NHA)等が以前は中層賃貸住宅を建設した時期もあるが、管理が適切にされず、現在では新規供給は止まっている。一応、政策文書には都市貧困層に対する賃貸住宅供給が上げられているが、一部の地方公共団体で試行的に供給されているにとどまる。

 

4−1 アロヨ政権1年間の実績(20027月集計)

 

 

目標

施策

目標

実績

勤労者世帯に対する低価格住宅の供給

 

80,000

72,375

HDMFの経済住宅等に対する貸付

19,373

HDMF開発融資(デベロッパーへの貸付)

32,781

政府系金融機関(SSS,GSIS)の経済住宅等への貸付

 

3,679

政府系金融機関開発融資(デベロッパーへの貸付)

13,108

未入居住宅の再分譲(Rent-to-Own 融資)

3,434

貧困層に対する社会住宅の供給

 

70,000

83,307

NHA事業(再定住事業,Site and Service 事業等)

47,771

HDMFによる社会住宅に対する貸し付け

9,536

ピナツボ火山関係移転事業

 

25,000

Couples for Chirist-Gawad Kalinga 事業*

1,000

Habitat for Humanity事業*

 

150

都市貧困層に対する土地権利の付与

 

150,000

183,026

フィリピン国鉄用地払い下げ

 

65,000

CMP事業による払い下げ

 

28,474

フィリピン港湾管理者用地払い下げ

 

10,000

National Government Centerプロジェクトによる払い下げ

 

8,332

その他

 

71,220

合計

 

300,000

338,708

20027月発表SONA(States of National Address)を加工

(世帯数)

1 *NGOによる自助住宅建設事業

 

 

2    重複を減じた実質受益世帯数は実績数を大幅に下回ることが見込まれる。

 

 

出典)資料

 

フィリピンでは, NGOが低所得者向けの住宅供給や、給排水の整備,コミュニティー施設の整備等々居住環境の向上に,政府からの補助金や寄付、海外からの援助等を得て実績をあげている。しかし、NGOによる住宅事業も持ち家をベースとしており、本来は低所得者に向いていると思われる賃貸住宅による支援は、資金回収の難しさや経験不足等のために未だ検討段階にある。

 

3−2 インドネシア

 

2001年の社会経済調査によれば、インドネシア全国の世帯数は5,137万世帯、このうちの4,072万世帯(79%)が持ち家に居住し、4,166万世帯(8%)が親族と同居、残りの全住宅の約1割が借家であるが、この借家は、年契約の借家であるコントラと月契約の借家であるセワに分かれ、ほぼ同数の210万戸、216万戸からなる。

居住地域インフラ省では、スラム改善を今後の重点施策の一つに掲げているが、スラムの要件の一つに、住宅規模に係る最低要件として1人当り9uを設定している。この基準以下の世帯は、都市部の2割、ジャカルタでは3割となり、持ち家に比べて借家の居住水準、特に月契約のセワの居住水準が低いことが分かる。また、都市部の平均値に比べても、ジャカルタにおいては持ち家・借家とも居住水準が低い状況にあることが分かる。

 

表−  地域別所有関係別住宅水準

区分              世帯数        基準未満世帯    基準未満世帯数

                        (千世帯)      数の割合      (推計値、千世帯)

インドネシア計         51,372          20.2            10,377     

 持ち家                40,718          17.2             7,003

 借家(コントラ)       2,101          33.3              699  

 借家(セワ)           2,188          49.4             1,081  

 親族居住               4,166          19.5              812

都市部計               22,364          21.5            4,808

  持ち家               15,057          14.0            2,108

借家(コントラ)      1,938          33.3              645  

      借家(セワ)          2,021          50.3             1,016  

親族居住              2,167          21.9              474

ジャカルタ計            2,300          33.4              768

      持ち家                1,190          19.0              226

借家(コントラ)        359          48.5              174  

      借家(セワ)            421          60.3              254  

親族居住                213          33.2               71

注)・所有関係別では他に社宅・官舎(政府所有)と無料借家(Rent Free)があるがここでは省略しており、各項の計と総計は一致しない。

・基準未満世帯とは、1人当りの住宅面積9uを確保していない世帯をいう。

 

住宅の規模を見ると、持ち家の規模はジャカルタにおいても7割が50u以上を確保しているのに対し、借家の規模は狭小なものが多く、特に借家(セワ)の場合、20u未満がジ
ャカルタで5割、都市部で4割に達している。

 

 

スハルト体制の崩壊後、それまでの6期に渡って策定されてきた5ヵ年計画=レペリタに替わり、新たにインドネシアの基本政策を示した国家開発プログラム(プロペナス)が20013月に発表された。これを受けて、住宅施策における中期戦略を示したのが、20017月に居住地域インフラ省において纏められた「住宅・居住開発に係るに係る政策及び中期戦略(2000年〜2004年)」である。これに先んじて2000年から2020年までの「住宅居住に係る国家政策と長期戦略」が20008月に策定されている。3つの中長期計画に共通するのは、

民間市場を整備し、強化すること

コミュニティベースの住宅整備を重視すること

既存の補助制度を見直し新たな体系に組替えること

     既存の住宅供給に係る組織(プルム・プルムナス=住宅公団、国家貯蓄銀行等)を見直し改革することなどである。

住宅・居住開発に係るに係る政策及び中期戦略(2000年〜2004年)では、プログラムの具体の目標が、下記のようにまとめられている。

 

 

 

 

 

 


プログラム(20002004)の具体の目標(抜粋)

1. 都市スラム居住地区の再開発・再整備: 71,720 ha

   集合賃貸住宅(RUSUNAWA)の建設:大都市・都市圏の17地区

2. 中小の町、農村・漁業集落におけるカンプン改善事業:133,280 ha

3. コミュニティベースの住宅整備(P2BPK)の制度化:522,000戸の住宅供給

4. 確実な住宅補助システムの制度構築

  a. 住宅取得融資(KPR)への補助:625,000

  b. 住宅居住地インフラ整備への補助:1,147,000

5. コミュニティ組織の立ち上げと都市貧困撲滅プログラム(P2KP)を通じた貧困住民への経済的支援 都市地域の3,100 自治体

6. 都市部における都市労働戦略/未就労婦人の為の特別戦略(PKPPKPP)プログラムを通じた生産的雇用の創出促進: 100,000

7. カシバ・リシバによる地方部のインフラ整備の促進: 12地区

 

 

4 まとめ

 

世界の各国の賃貸住宅は、それぞれの国の歴史的な経緯をふまえて多様な特徴を示している。本稿では先進国4カ国、中進国2カ国、途上国2カ国を概観したが、一つとして同じような状況にある国はない。

しかし、大きな傾向としては、下記のような流れがあると思われる。

先進4カ国では、一般的には賃貸住宅に対する公共の直接の供給から非営利民間組織への供給への流れが見られる。アメリカでは公営住宅の新規供給は無くなり、低所得者向け賃貸住宅はCDCが担っている。イギリスでも公営住宅はハウジング・アソシエーションに次第に移管が進んでいる。ドイツでは公益住宅企業の廃止、社会住宅制度の改正が進んでいる。フランスの場合は劇的な変化は見られないもののHLM組織に住宅以外に都市整備等ができる都市整備公社(OPAC)への移行等、ゆるやかな民営化の流れが見られる。

中進国の2つでは、韓国では公共賃貸が必要とはされながらも限定的にしか供給されていない。香港では現在でも公共賃貸住宅が高いニーズに支えられて新規住宅供給の半分程度も供給されて、特異な状況にある。

途上国では、フィリピンの場合は、低所得者の場合も持ち家を基本として政策対応がなされているが、インドネシアでは公共賃貸住宅で一定の役割を果たそうとの政治姿勢が見られ、しかしながら、公共賃貸住宅の施策は具体化が遅れている。財政基盤の弱い途上国では、資金が固定化される公的賃貸住宅は一般には実現が困難である。

 

 

参考文献

資料1)都市基盤整備公団居住環境整備部『平成13年度主要先進諸国の住宅政策と住宅事情等の現況調査』20023

資料2)住宅金融公庫総合調査室『DATA-NAW

資料3)『住宅』20037月号、日本住宅協会

韓国の住宅政策について 朴信映

インドネシアの住宅に係る中期計画 佐藤博信