お洒落な人形たち
わたしが物心ついて最初に見たテレビ人形劇は『ひょっこりひょうたん島』でした。
以来、人形劇の人形といえば、あの極端にデフォルメした顔かたちを思い浮かべていたわたしは、『新八犬伝』で辻村ジュサブローさんの人形を見た時、こういう人形もあったのかという驚きと感動のようなものを覚えました。 人形たちが、きちんと和服を着ていて、その着物の織りや染め、刀やかんざしなど身に着けている物にも本物のような細工が見られ、これまでの人形に対する固定観念が覆されたものでした。 『新八犬伝』の後に始まった『真田十勇士』の人形は、同じく辻村ジュサブローさんの手になる人形ですが、十勇士たちの人形は、ちょっと『新八犬伝』とは違うと感じました。 どこが違うかというと、まず、目です。 『新八犬伝』では歌舞伎を思わせるような赤いアイラインの入った目をしているのに対し、『真田十勇士』では、細い切れ長の目が多く見られます。 シンプルに描かれた目ですが、この目には不思議な魅力があります。場面場面によって、鋭くも見え、優しくも見え、あるいは深く思い悩んでいるようにも見えたりするのです。 次に、服装です。 先に『新八犬伝』の人形たちはきちんと和服を着ていると書きましたが、『真田十勇士』ではちょっと事情が違いました。もちろん、和服を着ている人形たちも、ちゃんといました。特に、徳川家康や千姫は、すばらしく上等な反物の衣装だったという覚えがあります。けれど、メインキャラの勇士たちは、なんと半数以上が半裸なんですよね。 これは、物語の特性上、十勇士たちは武士に限らず出身や経歴が実に様々ですから、その表れとしてこうなったのだと思います。また、八犬士に比べて動きの激しい十勇士たちのイメージにも合っていますね。 しかし、勇士たち、誰もがいつも同じ格好だったわけではありません。 まず、昌幸・幸村親子は、九度山に隠棲した時に髪を剃っていまして、その前と後では服装もガラッと変わりました。それまで貴公子風の美男子だった幸村ですが、得度後は地味な雲水姿でいるようになりました。でも、これはこれで、むしろ大人っぽくて貫禄もあり、とても魅力的だと思います。 それから三好清海。彼は初めて現れた時は着物に羽織を着ていたと思いますが、時には半袖一枚(へんな言い方ですが)に足はむき出しの盗賊姿にもなりました。また、間者として潜り込む時は女装もしましたね。変化の美男キャラでした。 猿飛佐助は、当初の予定では、成人後は少年期の人形とは顔立ちも髪型も違う人形が使われるはずでしたが、結局その成人期の人形は番組宣伝で登場したのみで、劇では最後まで少年期の佐助人形が使われました。 その少年佐助の衣装は、よく見るとなかなか洒落ています。上半身は、藍色に所々朱色の入った柄の七分袖のボレロ(と言っていいのかどうか)、下はやはり藍色柄の布地で腰のあたりを覆っています。 でも佐助の場合、時折その上に蓑や毛皮を羽織ったことはあったと思いますが、清海のように、違う服装に着替えたことはなかったような気がします。ただ、仕事で変装したことが一度だけありましたっけ。 夢影の衣装も素敵です。水色の着物に幾何文様の袴(「括り袴」というそうです)、絞り染めらしき生地の帯を前で結んでいるのが愛らしいです。 このほかにも、夢影の衣装はありました。鮮やかな花柄の着物を羽織っている夢影の写真が、原作本巻の二(→[関連書籍]参照)の付録の栞に写っています。また、時々黒い長い服を着ていませんでしたか? ちょっと記憶が曖昧なのですが…。 ほかのキャラでは、小天狗、十蔵、自然坊、鎌之助、為三の五人については、それぞれ一着しか(と言っても半裸だけど)記憶にありません。 小助は同じ着物だけど羽織を着たり着なかったりしていたような…。 大助は、関連書籍(→参照)に載っている写真を見る限りでは、少なくとも二着はあったようです。 最後に、霧隱才蔵ですが。あの上半身ほとんど裸で胸にペンダントという非常に風変わりな格好には、強烈な印象を植え付けられました。 けれど、実はずっと半裸姿ではなかったんです。物語の後半で、襟元から腰までを覆った青い縅鎧のようなものを着るようになったこと、覚えていますか。それに時折、肩には薔薇の花を飾っていました。 その姿、今となっては写真も残っていないので(少なくともわたしの手元には)、もはや記憶でしかないのが残念です。 (2007.5.27)
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■ この記事の読者のコメント ■
投稿日付: 2007年 5月 28日 名 前: ナリスタ 一寸時間掛かったのは狩衣と直垂について 調べなおしてました 「連続人形劇の全て」に載ってた使者に化けた佐助の 衣装は直垂(ひたたれ)です 武士が出仕する時の正装で、更に正式な場合は袴を だら〜んと引きずった「長袴」にします 忠臣蔵の松の廊下シーンで浅野が着てる奴なんかそうです 佐助が被ってるのは侍烏帽子(舟形)で 実によく細部まで作り上げてるのが素晴らしいと思いました 上級武士になると狩衣(かりぎぬ)を着用 家康や秀頼が着てます これがまた狩衣や直垂、水干 細々とした違いでよく判り難いです 後は江戸小紋ですが 夢影の袴は「鱗」紋です 江戸小紋は柿渋を施した和紙に細かく細かく 模様を彫って型紙を作り、型染めして行く伝統工芸で 柄が細かく、遠めで見ると無地に見えてしまう位です 連続人形劇の写真だと、大きくアップになった 信乃の小袖が代表的な鮫小紋です 佐助の右袖、足袋、下帯(?)も麻紋 小笹の小袖は青海波、鎌ノ介の襟や小天狗の腕のバンドの模様は 紗綾型文様、白雲斎の袴は七宝繋ぎです 十蔵はさすが、中国風の文様生地 でもこれ目立つでしょうね(笑) 清海の衣装で気になったのは 羽織の肩口に「フリル」が施されてた事です 複雑な緑の服に赤襟にピンクフリル… これはナルシストで自信家な清海の性格を見事に現してるのでは ないでしょうか 才蔵の青い服、細部は余り覚えてません 他に何か着たよな?程度で;; 寿三郎先生ならご存知でしょうか また伺ってみたいですね 止め処もなく書き散らかしてしまったけど とりあえずここまで〜
投稿日付: 2007年 5月 29日 名 前: みわ(管理人) ナリスタさん とっても詳しい解説、ほんとうにありがとうございます! みなさん、ぜひ、このコメントと併せて読んでくださいね。
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