目は涙 行く春や鳥啼き魚の目は涙松尾芭蕉『奥の細道』の「旅立ち」の段にある句です。 「幻のちまたに離別の涙をそそぐ」と前行にあり、惜別の思いを込めた一句ですが、昔、古文の授業でこんな解釈を聞いた覚えがあります。 人のように涙を流すことなどない鳥や魚の目に涙を浮かべたことで、非常に深い悲しみを表している…と。 遥か海の彼方から、キーリイ・サイゾこと霧隱才蔵と共に日本へやって来た荒鷲マンダラ。およそ人に馴れるとは思えない鷲を雛の時から育てた才蔵は、その可愛い相棒のことを「肉親よりも大切な存在」とも「命の次に大切なもの」とも、またある時は「恋人」とも言いました。 ある日のこと、才蔵は、ふとしたことから江戸城で徳川家の旗本相手に立ち回り大騒動。ちょうど江戸城から詔勅状を盗み出した為三をつれ、マンダラに乗って城を脱出しました。(→「彼らがやって来た日」参照) 為三と話をしながら江戸の空を飛び続け、やがて着地場所を定めた才蔵がマンダラに言います。 「ようし、マンダラ、あそこに降りろ」 ところが、マンダラは下降しようとせず、そのまま飛び続けます。 「おい、どうしたんだ? マンダラ」 マンダラは、なおも降りようとしません。 「マンダラ、ほら、マ、ン、ダ、ラ」 才蔵はそう言ってやさしくマンダラの頭を撫でました。 (ここで、ナレーターの説明が入ります。)マンダラは才蔵に頭を撫でてもらうのが好きだったので、こうなるとどうしても嫌とは言えなかったのでした。そして、才蔵に言われたとおり、着地して二人を下ろしました。 その時はまだマンダラの異変をさして気にも留めず、才蔵は朗らかに話していましたが、ふと何気なく、マンダラの顔を見て驚きます。 才蔵を見上げたマンダラは、目にいっぱいの涙をためていたのです。 「マンダラ、おまえ…泣いているのか?」 心配でたまらない才蔵。けれど、「どこか痛むのか」と訊いても物言わぬマンダラ。 それから、ほんの少しの間、才蔵がマンダラの傍を離れた隙に、マンダラは江戸城から追って来た徳川方の鉄砲隊に撃たれてしまいました。 追手から逃れるため、為三の道案内で才蔵はその場から走り去り、マンダラに後を追わせます。時々、傷ついたマンダラを気遣って振り向く才蔵。落ちそうになりながらも、けなげに飛び続けるマンダラ。けれど、ついに力尽きてマンダラは地に落下しました。 そこへ、弓矢を携えた追手の勢が迫ります。もうだめか、と思ったその時、瀕死のマンダラが、射かけて来る矢をその身に受けながらも最後の力を振り絞って激しく羽ばたきをし、その翼から飛び出した無数の羽根が手裏剣となって追手に突き刺さりました。 追手は全滅。マンダラは、雄々しく翼を広げた姿のまま、その場で息絶えました…。 そのすぐ後で、逆上した才蔵は、マンダラの仇討ちにと江戸城へ引き返し、窮地に陥ったところを佐助に救われます。そして、それをきっかけに、真田の勇士に加わることになるのでした。 あの時、マンダラが見せた無言の涙…。あの涙こそ、死を予感していたマンダラの「幻のちまた」との離別の涙だったのだと、わたしには思えるのです。 (2007.1.13)
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