めぐりあい〜アムステルダム号戦記(一)〜

 『真田十勇士』放送二年目に入った1976年4月5日から4月16日の二週間、第221回〜第230回の10回に渡り放送されたエピソードは、才蔵と、オランダ船アムステルダム号の船長・イサベラとの恋物語でした。
 このアムステルダム号編は、時代劇の中にあって、西洋の素材を前面に押し出し、かなり特異な雰囲気を醸し出しています。


 物語も半ばになると、勇士たちそれぞれに相応しい使命が下されるようになりました。イギリス人の霧隱才蔵に与えられた任務は、長崎へ飛び、オランダ軍船を味方に付けること、まさにうってつけの役目でした。
 ところが、長崎には柳生但馬守の一行も、オランダ船から大砲と鉄砲を買い付けようと来ていたのでした。敵との斬り合いで傷を負う才蔵ですが、ゴンドラが彼を乗せて飛び去り、ひとまず危機を脱しました。

 それから、静かな泉のほとりに降り、才蔵は、泉の水で傷を癒やして、ゴンドラに語りかけます。
「大丈夫さ。おれは、不死身だからな」
 そんな時でした。ふと、百合の香に誘われて、その先を見やると…羽根飾りの付いた青い鍔広の帽子を被り、男装はしているけれど、長い金髪の巻き毛が肩まで垂れ、百合の花を手にした美しい女性がそこに立っていました。
 …才蔵、一目惚れでした。しばらく声も出ず呆然と立ち尽くしていました。それから、どちらが先に声をかけたのか覚えていないのですが、お互い名乗り合います。彼女の名はイサベラといいました。
 二人は少し話をしますが、その際に、才蔵は自分が豊臣家に味方をしていることを誇らしげに語ります。イサベラは、ここでは自分の地位を明かさずにいましたが、才蔵の話で豊臣家に興味を持ったようです。

 才蔵とひとまず別れた後、イサベラはオランダ軍船アムステルダム号の船室に帰って来ました。副船長のジョージ・ペパードと、この国の政情について論を交わしていましたが…
 まもなく、アムステルダム号の甲板で船員たちが騒ぎ始めます。
 ジョージ(だったと思うけど)が望遠鏡を手に覗いて見ると、なんと、一人の男(才蔵)が波の上を水上スキーのように滑って近づいて来るのです。ジョージは驚き、急いで銃を取り出して、その男を狙って撃ちました。
 ダーンという銃声。が、次の瞬間、彼の姿は視界から消え、いつの間にやら、その男はアムステルダム号の甲板に上がっていました。
「おれはイギリス生まれのキーリイ・サイゾという者だ。キャプテンに相談がある。会わせてくれ」
 才蔵は堂々と言い放ちますが、ジョージは今ひとつ歯切れが悪く、苛立った才蔵は、びしっと叫びました。
「さっさとしろ! おれは気が短いんだ!」
 そして才蔵は、船長の所へ案内されますが…船室に入って驚きの声をあげます。椅子に腰掛けて才蔵を迎えたのは、泉のほとりで出会ったイサベラ、その人でした。
「あなたは!」
「また会いましたね。キーリイ・サイゾ」

(第221回〜222回より)


 本来、非情な才蔵に恋愛は似合わないはずなのですが、この人が相手なら許せると、見る者を納得させる不思議なオーラがイサベラにはありました。

 ほかに誰もいないような所で二人ばったりと出会い恋に落ちる…このシチュエーションは、劇的過ぎて、ちょっと少女趣味な面が無きにしも非ずなのですが、男装をしていて落ち着き払ったイサベラの存在が、場を引き締め、不自然さや嫌味を感じさせなかったような気がします。
 大人びたイサベラと、逆に己の恋心に戸惑う才蔵の様子が、とても新鮮に感じられました。

 「また会いましたね」は、なかなかの名セリフだと思います。

(2007.3.10)

        アムステルダム号戦記 >>>(二)へつづく


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