勇士の恋の物語

 映画でもTVドラマでもマンガでも、それが歴史物であれ社会派であれコメディであれ、大抵と言っていいほど恋愛エピソードが盛り込まれています。いつの世でもラブ・ストーリーは、人の心を惹きつける最強の要素なのでしょう。
 『真田十勇士』も例にもれず、時には和やかに、時には切なく、いくつかの恋物語が繰り広げられました。むしろ、それらのエピソードこそが、この『真田十勇士』のファンを捉えて離さない、重要な魅力なのかもしれません。
 ここでは、十勇士の恋人たちを紹介しましょう。


鎌之助とお鶴

 十勇士とその恋人たちの中で、最初に恋人同士として登場するのは、鎌之助とお鶴の二人です。
 お鶴は、鎌之助が以前仕えていた宇喜多秀家の息女です。つまり、二人は主従関係にあったわけで、互いの呼び名が「鎌之助」「お鶴様」なんですが、それでもしっかり相思相愛の仲でした。

 お鶴の父・宇喜多秀家は、関ヶ原の敗戦後は八丈島に流されますが、秀家が隠した軍用金の在処をつきとめるため、鎌之助が幸村に協力したのをきっかけに、鎌之助とお鶴は二人連れ立って九度山の真田館へやって来ました。(この辺りのいきさつは、「彼らがやって来た日」に書きましたので、そちらをご覧ください。)
 それから後も、軍用金の在り処を巡って徳川方と真田の勇士たちとの攻防が続きますが、お鶴は、否応無しにその渦中に立たされます。半蔵や百地三郎太ら徳川方の者にさらわれたことも幾度かありました。父・秀家もまた、記憶喪失になったり、八丈島からどこかへ連れ去られたり、受難が続きます。
 しかし、けなげに父を求め続け、鎌之助を慕うお鶴の姿は、とても愛らしいものでした。

 ちなみに、原作本によると、最初に登場した時(1603年頃)お鶴は12、3歳。(→「幾歳月」参照)まだ幼いと言っていい年頃ですね。

 鎌之助は、真面目で無口な性格ですから、恋心を口に出して打ち明けることはなかったと思います。でも、口には出さずとも、お鶴はちゃんと、わかっていたことでしょう。互いに手を取り合って二人で寄り添い歩く時…それが鎌之助とお鶴の至福の時であり、二人の愛情の形だったと、わたしには思えます。

このページの先頭へ

佐助と小笹

 小笹は、浪人者の名古屋山三郎(家康の実子ですが、自分を捨てた実父・家康を憎んでいます)と女歌舞伎の出雲の阿国との一人娘で、父と共に興行をして暮らしていました。

 十勇士の中で最初に小笹と出会ったのは、実は佐助ではなく、清海と十蔵の二人でした。興行をする名古屋山三郎に対し、力試しのつもりで十蔵が試合を挑み(というより清海が十蔵に挑ませ)、結果は1勝1敗。

 佐助が小笹に初めて会ったのは、幸村の命により風盗族の所在を聞き出すため百地三太夫のところへ向かう途中でした。
 いつものように父の興行を手伝い「ねんねん山の小兎は、なぜにお耳がこう長い…」と唄いながら舞う小笹が、通りがかった佐助に見物していきませんかと声をかけます。「う、うん」と佐助の返事。ひと目惚れしたと明らかにわかるリアクションでした。

 その後、父・名古屋山三郎が家康暗殺に失敗して捕らえられた時、佐助に救われた小笹は、それからは佐助の母・恵林尼(佐助は母とは知らずにいましたが)と共に曽呂利新左衛門の庵で暮らします。捕らえられ所在の知れぬ父親のことは心配でしたが、静かで穏やかな暮らしを得ることができました。
 鎌之助とお鶴のように一緒に暮らさずとも、佐助と心を通わせることができた小笹は、それなりに幸せだったことでしょう。
 やがて、その庵での暮らしも、夏の陣を経て終わりを告げますが、それでも最後、どこまでも佐助と共にいられることになった小笹は、やっぱり果報者だったと思います。

このページの先頭へ

夢影と佐助と清海

 木曽谷で忍者として育てられた夢影は、佐助と出会って愛を知り、佐助を慕って九度山へやって来ます。
 小笹とは反対に、一緒に暮らしているけれど思いが通じず、その思いを胸の奥深くに秘めたまま、ただひたすら勇士たちに混じって忍びとしての仕事を続けた夢影には、とても切ないものが感じられました。
 一度、夢影が泣いた場面を見た覚えがあります。
 たぶん佐助と二人きりで諏訪へ軍用金の捜索に行った時のことだったと思いますが、夢影は佐助に自分の胸の内を明かしました。どういう言葉で告白したかは覚えていません。佐助は「私には小笹という人がいる」というような返事をします。それを聞いても夢影は努めて平静な態度で「わかっています。それでいいのです…」というようなことを言ったか言わなかったか…。
 そして、その後一人になった時に、夢影は思い切り泣き崩れたのでした。

 一方、そんな夢影に、清海が心惹かれてしまいます。
 ある日のこと、大坂城防護のため、夢影、清海、才蔵の三人が潜入するのですが、夢影は逆に捕らえられ石牢に監禁されてしまいます。姿が見えなくなった夢影を、清海が心配して探すのですが、これまた逆に捕らえられ監禁されてしまいます。その牢の中で、清海は夢影の佐助に対する思いを聞いて失恋…というエピソードがありました。

 原作では、最後、危ういところを清海に救われて、気持ちがグラッと清海に傾くのですが、TV版では、夢影は最後まで佐助への愛を貫きます。ただ、夢影は果たして、どちらの方が幸せだったのでしょうか。それは、誰にも何も言えませんね。

このページの先頭へ

為三とお花

 恋人同士までには発展せずに終わりましたが、為三とお花という少女との切ないエピソードがありました。
 これは原作にはないTV版オリジナルですが、『NHK連続人形劇のすべて』という本(→[関連書籍]参照)のストーリーダイジェストに少し記されています。
 それによると、江戸城天守閣爆破の使命を受け、為三は、江戸屋宗八らの協力を得て爆破に成功するのですが、そのために、何も知らない少女・お花を犠牲にしてしまい、胸を痛めた…という話です。
 お花は、無口な田舎の女の子で、お城の中で、女の子に、多少モジモジしながらも、いつものように冗談をとばす為三の姿があったらしいですが…確かなことは、わかりません。

 (実は、こういう話が確かにあった、というところまでは思い出したのですが、細かい内容をどうしても思い出せません。お花って、どんな顔していたか、どんな少女で、どういういきさつで為三と知り合ったか、なぜ犠牲になってしまったのか…ご存知の方、おしえてください。新しい情報を得られ次第、更新します。)

このページの先頭へ

才蔵とイサベラ

 長崎へ…才蔵は巨鷲ゴンドラに乗って飛びました。オランダ軍艦を味方につけよとの命を受けて。
 その先で、男装をしていた西洋人女性・イサベラに出会い、心奪われます。そして、彼女こそが目的のオランダ軍艦アムステルダム号の船長だと知るのでした。
 才蔵は、大砲と鉄砲を買いたいと話を持ちかけますが、商談は難航します。同様に徳川方も交渉に長崎へ来ていると知った才蔵は、後から援けに来ていた小助、佐助と共に、それを阻止しようと画策します。
 そんな中、才蔵の誠実さに惹かれ始めたイサベラは、なるべく才蔵たちに有利なように話を持っていこうとするのですが、ここで、イサベラに横恋慕していた副船長のジョージ・ペパードが邪魔をします。ペパードはイサベラに「才蔵に利用されている」と嘘をおしえ、その言葉に惑わされたイサベラは、思い余って才蔵たちを消しにかかりました。
 その攻防の中で、ついに才蔵とイサベラの二人が剣を交えます。結果、才蔵の剣が勝りました。
 そうして、船の主導権を握った才蔵たちですが、才蔵はイサベラと二人きりになった船室で、イサベラへの思いを告白します。誤解は解け、ようやく二人は心を通わせるのでした。
 イサベラは言います。「この仕事が終わったら、わたしは船を下ります」と。「わたしと共に暮らすか?」という才蔵の言葉に、イサベラはうなずきました。
 けれど、その望みは断たれてしまいます。
 副船長のペパードらがイサベラを裏切り、秘密裡に徳川方と取引をして、大砲で大坂城に攻撃を仕掛けたのです。その計画はイサベラが事前に察知し、才蔵たちと協力して何とか防ぐことができたのですが、その戦いの最中で、イサベラは銃で撃たれてしまいました。
 そして、静かに息をひきとります。才蔵の腕の中で…。

 このアムステルダム号のエピソードは、原作とかなり変えています。原作では、イサベラは登場せず、船長はジョージ・ペパードとなっていました。船長を女性にして、才蔵との恋物語に作り変えたわけですね。
 わたしが最も好きなエピソードです。

このページの先頭へ

大助と千代

 千代は、南蛮貿易を手がける豪商・大阪屋惣兵衛の娘です。
 初登場は物語の初めの方で、大助より先に、すでに他の勇士たちと知り合っておりました。

 まず、近江の琵琶湖の畔で湖賊にさらわれた時、ちょうど上田へ向かう途中の佐助に救われます。(原作本によると、この時、佐助は15歳くらいで、千代は「五歳」とありました。)

 それから後、今度は才蔵と知り合います。
 大阪屋惣兵衛の屋敷には南蛮渡来の物が多くありましたから、たまたま才蔵(正確にはマンダラ)が惣兵衛の屋敷に飼われていたオウムを見つけたのが縁で、惣兵衛父娘は才蔵と懇意になりました。
 その後も千代は、巨鷲ゴンドラにさらわれて才蔵に助けられたり、お琴を弾いて聴かせたり、才蔵には可愛がられていたようです。

 大助と千代が出会ったいきさつは覚えていないのですが、九度山の真田館が炎上した後、大助は幸村と自然坊と共に大阪屋惣兵衛のもとに身を寄せていますから、おそらくそこで知り合ったのでしょう。
 お互い意地っ張りで顔を合わせれば喧嘩ばかり。自然坊たちが二人の仲を取り持とうと、小助に恋文を代筆させたこともありました。(この辺は、『NHK連続人形劇のすべて』(→[関連書籍]参照)のストーリーダイジェストに拠りました。)
 それが効を奏したのかどうか定かではありませんが、いつしか二人は素直に寄り添うようになりました。

 余談ですが…先に、佐助15歳の時、千代は5歳と書きました。とすると、千代は大助より8歳も年上になってしまうんですが…(→「幾歳月」参照)ま、考えないことにしましょう、このことは。そもそもこの恋物語も、原作にはないTV版オリジナルエピソードですし。

このページの先頭へ

小助とお紺

 これは恋人同士とは決して言えないのですが、穴山小助とお紺の、ささやかなふれあい物語もありました。

 ある日、小助は、主人・幸村を裏切ったと見せかけて、九度山を出て行きます。どういう策略だったか覚えてませんが、敵を欺くにはまず味方から、というつもりでだったと思います。
 そこで、一人の女人・お紺と出会います。お紺の正体は、実は服部半蔵が手飼いの白狐。小助もそれを見破っていたのですが(たしか見破っていたと思うけど記憶違いだったらごめんなさい)、逆に、小助はお紺を利用しようと企てます。
 お紺は、敵ながらも小助に本気で惹かれてしまい、まんまと彼の策に乗ってしまうのですが、やがて騙されていたことを知ると、悲嘆に暮れて、障子に歌を書き残し(これがとてもいい歌だったのですが、まるで思い出せません)、狐の姿に戻って行方をくらましてしまいます。
 障子の歌を見て、お紺が本気で慕ってくれていたことを知った小助は、良心を痛め、いずこと知れないお紺に向かって、詫びの言葉をかけるのでした。

 そして、夏の陣の後、敵を欺くため捨て身の策で命を絶った小助を密かに弔ったのは、このお紺だったと覚えています。

 なお、この二人のエピソードも原作にはありません。また、TVで見たのは確かですが、それがいつだったか覚えておりません。『NHK連続人形劇のすべて』のストーリーダイジェストにも、それらしい話が見当たらず、このエピソードがどの辺りに挿入されていたのか不明です。(覚えている方、ご一報を!)

(2006.12.25)

[ トップページへ | このページの先頭へ ]