それぞれの…

 原作の『真田十勇士』巻の五(→[関連書籍]参照)の最終章より一つ前の章は「それぞれの運命の下に」というタイトルがついています。
 「それぞれの…」とは不思議な言葉です。リズミカルな音楽のように響くけれど、その調べは、ハ長調からイ短調へ、そうかと思えばまた長調へと、いつの間にか移調したりします。
 戦死する者、故郷へ帰る者、未知の世界へ旅立つ者…真田館で共に過ごした人々が、一人、また一人と去っていきます。時の流れの中、それぞれの調べを奏でながら…


 徳川の軍勢に包囲された九度山…幸村は勇士たちと共に過ごした館を爆破して脱出に成功します。それが、別れの始まりでした。

 戦を前にして、幸村は妻・美乃との別離を決意します。美乃は、大助に伴われて木曾へ向かい、曽呂利新左衛門(→「名もなき星たちの光」参照)に託されました。やがて、大坂城落城の後、美乃は曽呂利庵にて幸村討ち死の悲報に接することになるのでした。

 大阪夏の陣が始まる前のこと。
 お鶴(→「勇士の恋の物語」参照)は、父・宇喜多秀家を求めての何度目かの旅に出て、秀家が八丈島にいることを知らされます。(関ヶ原の敗戦後に秀家は八丈島に流されたのですが、その後記憶喪失となり、地獄百鬼によってどこかへ連れ去られていました。)
 お鶴は、鎌之助と才蔵に伴われて八丈島へ向かい、そこで小天狗とも合流しますが、八丈島には亡霊道士が操る奇妙なからす天狗たちが暗躍していました。
 からす天狗たちはお鶴をさらおうとし、三勇士が防戦を繰り広げます。しかし、再びからす天狗たちに襲われたお鶴は、間一髪小天狗に助けられたものの、重傷を負ってしまいました。そして、記憶を取り戻した父と見えることなく、お鶴は息をひきとるのでした。
 この時、小天狗は急ぎ鎌之助を呼びに行くのですが、時遅く、鎌之助はお鶴の死に目に会えなかったと…たしかそんな憶えがあります。
 まさか、ここでお鶴が死ぬとは思わなかったわたしには、このできごとは、とても悲しく感じられました。
 原作では、戦の終わった後、お鶴は父のいる八丈島で日々を送ります。

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 元和元年(1615年)五月、大阪夏の陣。
 真田幸村は、大坂城の天守閣の自分の部屋に勇士たちを集め、ひとりひとりと接見して別れの言葉を交わしました。
 合戦、やがて大坂城落城。炎上する天守閣を見上げる幸村。美しい…と。
 まるで独り言のように、かといって悲壮な表情はなく、傍に侍る小助と佐助に決死の覚悟を伝え…そして、二人に見送られて、幸村はむしろ誇らしげに、ひとり敵陣に向かって行くのでした。

 一方、幸村の策により千姫の替玉となった夢影は、旗本・坂崎出羽守によって家康の本陣に連れ去られます。けれど、折りしもその時、本物の千姫を連れて来た亡霊道士が、偽千姫(夢影)の正体を暴きます。それを確かめに夢影に近づいて来る柳生但馬守と坂崎出羽守。床の中で咄嗟に大きな瓢箪に化けて身を隠す夢影ですが、坂崎出羽守が怒りのあまり突き刺した刃をその身に受けてしまいました。
 夢影を愛する清海(→「勇士の恋の物語」参照)が、独りで救出にやって来ます。孤軍奮闘、夢影を抱え大凧に乗って飛び去りました。しかし、夢影の傷は深く、しだいに意識も薄れ、とうとう夢影は清海の腕の中で命尽き果てるのでした。最期の言葉が「さすけさま…」
 なお原作では、夢影は生き延び、大助を連れて木曾谷へ帰ります。

 (ここはこれ以上、わたしの下手な説明はやめにしましょう。幸村の討ち死と夢影の最期は、現存するVTR第434回と第435回に収められています。DVDにはないけれどNHK番組ライブラリーで視聴できます。→[関連書籍]参照

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 炎上した大坂城。大助と共に逃げ延びた呉羽自然坊は、山路でふと、夢を見ます。それは、主君・幸村の死を告げる夢でした。目覚めて、自然坊は大助に言います。「今、夢の中で、殿が『星になる』と、『おまえは山へ帰れ』と言われた」と。
 そして、自然坊は大助と別れ、比叡山へ向かいます。僧となって幸村を弔うために。
 ちなみに原作では、自然坊は一度は比叡山へ登ろうと考えたものの、思い返して、鎌之助を失ったお鶴を慰めようと八丈島へ向かいます。

 自然坊と別れた後、大助は他の勇士たちと合流しました。そして、為三と十蔵は軍用金の運搬のため蝦夷へ発ち、他の者たちは曽呂利庵へと向かいます。
 才蔵は、一足先に千代(大助の恋人)をつれて曽呂利庵へ到着し、小笹(佐助の恋人)に今後の計画を話して聞かせました。
 まもなく、勇士たちが秀頼をつれて曽呂利庵にやって来ます。しかし、すでに敵に察知されており、曽呂利庵は包囲されてしまいました。
 ここで、亡き幸村の右腕だった穴山小助が皆に指示を与えます。勇士たちは二手に分かれ、鎌之助は秀頼に変身して、才蔵、大助らと共に、敵をおびき寄せて九州へ向かい、佐助たちは秀頼公を北の地へ逃れさせるべく蝦夷へ向かうのです。
 敵兵は、偽の秀頼とは知らずに鎌之助たちに襲いかかります。迎え撃つ小助、才蔵、大助。小助は「ここは任せろ」と言い、鎌之助たちを先に行かせました。そして、秀頼が九州に落ち延びたと思わせる偽の書状をわざと敵の手に渡すべく、小助はひとり、敵の襲撃を受けながら自害して果てました。
 この時、あとに遺された小助の亡骸を密かに弔ったのは、かつて、半蔵の手下でありながら小助に惹かれた白狐のお紺(→「勇士の恋の物語」参照)だったと記憶しています。

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 敵兵から逃れた偽秀頼(由利鎌之助)には、霧隱才蔵真田大助、千代が付き添って行きました。
 小助の懐にあった偽の書状に騙されて、亡霊道士ら徳川方の追手は、九州へ向かった秀頼(実は鎌之助)を抹殺しようと狙います。
 亡霊道士は千代をさらい、引き換えに秀頼を渡せと迫りました。その時、身代わりとなって前へ進み出たのが、偽秀頼の鎌之助でした。そして、鎌之助は亡霊道士の妖術により火にまかれ、壮絶な最期を遂げたのでした。
 それを目の当たりに見てカッとなった才蔵は、巨鷲ゴンドラに飛び乗り敵に向かって行きますが、危ういところを魔比達に救われます。亡霊道士は、魔比達の放った翡翠の玉によって燃え尽きました。そして、魔比達は才蔵に言います。「もう、おまえの任務は終わった、国へ帰れ」と。
 けれどその直後、大久保彦左衛門の鉄砲隊の襲撃を受け、才蔵は大助と千代と共に巨鷲ゴンドラに乗り離陸したものの、ゴンドラは撃たれて傷を負います。幸い怪我は軽く、ゴンドラを励ましながら海の上を飛ぶ才蔵たち。
 そこへ、幸運にも一艘の船が目に留まります。それは、才蔵とは旧知の間柄であった呂宋助左衛門(→「名もなき星たちの光」参照)の息子・助五郎の船でした。才蔵たちは、何とかその船に降り立ちます。そして、助五郎の勧めもあって、才蔵、大助、千代の三人は、その船でシャムへ渡ることを決意するのでした。
 水平線の彼方が赤く染まった夕暮れの海、船の上に立ち尽くす三人の後姿が印象に残っています。
 なお原作では、才蔵は巨鷲ゴンドラに乗ってヨーロッパへ、大助は夢影の案内で木曾谷へ向かいます。

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 一方、他の勇士たちは、本物の秀頼を守るべく、皆それぞれ蝦夷へ向かいました。清海が大凧に、秀頼と、それに佐助の恋人・小笹も乗せて、蝦夷の地にやって来ます。
 やがて、知床岬で一同に会した面々は、今後の身の振り方を相談し、秀頼を異国へ送ることに決めました。
 筧十蔵は、故国・明へ帰国します。
 高野小天狗為三と共に熊野へ行くことになりました。
 そして、猿飛佐助は、秀頼、小笹と共に、魔比達の使いである二羽のかもめに導かれながら、小舟で北の国を目指して旅立ちました。
 その旅立ちの場面、わたしは覚えていないのですが、ある方から寄せられた情報によりますと、「争いのない世の中を、ともに作っていこう!」とかなんとか言ったそうな…。
 ただ、徳川家に帰された千姫は、秀頼が北の地へ生き延びたことを知りません。城の窓から夜空を仰ぎ、秀頼を偲んで涙を流します。
 原作では、秀頼は自決。為三は小天狗につれられて一度は熊野へ行くのですが、無理を悟って大阪商人になります。佐助は曽呂利庵を訪れ小笹と再会します。

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 最後に、三好清海は、幸村の敵討ちのため家康暗殺に向かうと言って仲間と別れ、翌年の元和二年、駿府城に潜入します。
 家康は床に伏していましたが、清海を見て、二言三言、語りかけます。これはわたしの記憶だけによるのですが、たしか「争いはしたくなかった。平和を求めていた。幸村と争いたくはなかった…」というようなことを話し、清海は何も言わず、その言葉を聞いていたと思います。その時の清海の表情(人形なのに表情が感じられたのです)…驚きとも、仇討ちを果たした満足感とも、あるいは無情とも…何ともいえないその表情が、長い物語の終節にふさわしい、不思議な余韻を残しました。
 そして家康は、その生涯を閉じました。
 ただ、その後、清海はどうなったのでしょうか…。原作では、刺客の当然の結果として、柳生の手の者、服部半蔵の部下たちが、清海めがけて殺到し、清海は主人・幸村のあとを追う覚悟で逃げようとしなかったとありましたが。これについては、『NHK連続人形劇のすべて』(→[関連書籍]参照)のストーリーダイジェストには記されていませんし、わたしの記憶も空白になっているのです。
  ― (追記) ―
 この記事を書いて凡そ九年後、交流広場に寄せられたメールで知りました。(→交流広場)家康最期の場面の後、清海がどうなったかは語られていなかったそうです。単に時間がなかっただけかもしれませんが、視聴者それぞれの想像に任せられるのも、悪くはないかもしれません。

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 この記事は、原作本『真田十勇士』(柴田錬三郎 著 日本放送出版協会)及び『NHK連続人形劇のすべて』(池田憲章・伊藤秀明 編著 株式会社アスキー)を参考にして、TV人形劇を見た記憶を補い、内容を要約したものです。


 原作とはだいぶ異なった結末になっています。特に、お鶴の死、夢影の死、反対に秀頼が死なずに生き延びたこと。(原作と違う結末の人については、それぞれの箇所に記してあります。)
 けれど、異なる結末になったことによって、原作にもTV版にも、史実とは違う“伝説”というものの曖昧さが強調される結果となり、逆に様々な想像力をかき立てられたような気もします。
 彼らはどこからきたのか、そしてどこへ行ったのか…曖昧ないきさつ、曖昧な行方、「それぞれの…」という語感に「伝説」という言葉の持つ響きが加わり、哀感の向こうに期待感を残して物語は終わりを迎えました。

 わたしがNHK番組ライブラリー(→[関連書籍]参照)で現存するVTRを見たのはつい最近のことですが、ラストシーンは幸村の星とその周りを囲む十勇士の星が輝く夜空だったと…その三十年前の記憶に間違いはなかったことを認識できて、妙にうれしく思いました。
 おぼろげな記憶の中にも確かな記憶がある…この人形劇の存在もまた、曖昧な伝説となりゆく中で、僅かな期待感を残しているのかもしれません。

(2007.2.25記 2016.5.18追記)

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