持つべきものは友

 阿弥陀ヶ峰で才蔵と鎌之助が出くわした盗賊一味の企ては、幸村によって暴かれ、事なきを得ましたが…(→「プライド」参照)
 その頃の才蔵は、冷めているというか、ひねくれているというか、かなり不真面目でした。個人的な侮辱を受けてカッとなって乱闘はしたものの、豊臣家の世継を主張する一味を怪しみながらも面白半分で「どうなるか見物しよう」と言うのですから。
 盗賊一味の言葉を信用してしまった鎌之助ですが、「どうも怪しい」と言う才蔵の言葉に、一度帰って主君・幸村に報告をしようと提案します。それに対して才蔵はこう言います。
「偽者か本物か知らぬが、徳川家康に会う時、我々も家来の中に加わって様子を伺い、もし、家康から認められて大坂城をもらったら、あいつから、十万石くらいもらおうぜ」
 才蔵は、幸村の家来になりながらも、天下が徳川のものになろうと豊臣のものであろうと、どうでもいいと考えていたのです。
「長生きするぜ、おまえ」
 と、呆れる鎌之助。
 このエピソード中、真面目で人を疑うことが不得手な鎌之助と、猜疑心が強く不良っぽい才蔵との対比が、たいへん興味深く描かれています。

 そんな才蔵が変わってきたなと感じたのは、巨鷲ゴンドラが登場してからです。このエピソードについては、すでにそのあらすじは紹介済みですが(→「路線変更」参照)、もう少し詳しく、才蔵の言動を追ってみたいと思います。

 盗賊一味を退けた後、才蔵は主君・幸村に、鎌之助と共に江戸へ行くことを申し出ます。(記憶違いかもしれませんが、確か才蔵から言い出したと思います。)先の阿弥陀ヶ峰では鎌之助が道案内しましたが、江戸なら才蔵はかつて大立ち回りをした所ですから、今度は才蔵が案内を務めました。
 しかし、なぜ鎌之助と一緒なのか。ここからは原作にないエピソードですから、どんな展開が待っているのか興味津々でした。
 初め、江戸城を遠巻きに眺めて言葉を交わす二人。少し経ってから才蔵がポツリとつぶやきます。
「これからおれは恋人に会いに行く」
「ええ! 恋人?」
 驚く鎌之助。
 誰のことを言っているのか、わたしにはすぐわかりました。案の定、この江戸で命を落とした巨鷲マンダラの臨終の地へやって来て、才蔵は墓の前で涙を流します。鎌之助は黙って見守っています。
 その時、オウムのレッド(→「赤い鳥」参照)が飛来し、沈んでいた才蔵が、たちまち明るさを取り戻しました。レッドと楽しそうに会話する才蔵…。それから、レッドの案内で、才蔵と鎌之助は、大阪屋惣兵衛と千代の親子を訪ねました。

 そして、いよいよ巨鷲ゴンドラの登場です。マンダラそっくりの巨鷲が天空で旋回しているのを、誰よりも早く気づいたのはむろん才蔵でした。
 けれど、才蔵が驚いて空を見上げている間に、巨鷲はみるみるうちに近づいて千代をさらって行ってしまいました。これは、才蔵も不覚でしょう。
 後を追う才蔵。いったん追い着いたものの、巨鷲は攻撃的に羽ばたきをして才蔵を寄せ付けず、さらに遠くへと飛んで行ってしまいます。その時の才蔵のセリフ。
「ああ、しまった…ようし、こうなったら、たとえ海の果てでもどこまでも追いかけて行ってやるぞ!」
 …なんか楽しそうなんですよね、こんな時に。「海の果て」と言うところが、才蔵らしいけど。

 さて、その巨鷲の暴走を止めたのは、偶然そこへ飛来した三好清海の大凧ですが、清海にしてみれば、何がなんだかわからないまま空中で巨鷲とぶつかり合って落下、災難だったわけです。運良く清海と千代は無事でしたけど。
 ようやく追い着いた才蔵は、あらためて巨鷲を見つめました。怪我をした様子。それでも必死に起き上がろうとしながら、才蔵を睨みつけています。そんな巨鷲がなんだか可愛く思えてきた才蔵は、清海に言います。
「なあ清海、おれはこいつを飼おうかと思う」
「えっ、こいつをか?」
「ああ。こいつをマンダラの二代目に育てあげようと思う」
「しかし、そいつ凶暴だぞ」
「それだけ育てがいがあるさ」
「ま、やってみな」
 …清海は、そっけないんですよね。

 そして清海は、千代を惣兵衛の元に送り届けに行き、才蔵は残って、反抗的なゴンドラの調教に悪戦苦闘します。
 そこへ、鎌之助とレッドがやって来ます。レッドから、あの鷲は実はマンダラの兄のゴンドラだと聞いた鎌之助は、レッドと共にそれを知らせに来たのでした。
 しかし、マンダラが才蔵を庇って命を落とした一件をレッドがゴンドラに伝えると(どういうコミュニケーションか知らないけど)、ゴンドラは、弟のマンダラが死んだのは才蔵のせいだと思い込み、才蔵に襲いかかろうとします。レッドは「あたし、もう諦めた」と言いますが、才蔵は諦めません。
「鎌之助、おれは絶対にこいつを手放さないぞ。おれは、こいつがマンダラの兄だと知って、よけい手放したくなくなった」
「そう言うだろうと思って、知らせに来てやったのさ」
「そうか。やっぱり持つべきものは友だ」
 …このセリフ、才蔵らしいと言うべきか、らしくないと言うべきか。ちょっと気障な言い回しが似合ってはいるけれど、これまで勝手気ままで少々一匹狼的なところがあった才蔵が「友」!(わたしの聞き違いでしょうか?)

 調教がままならないうちに、嵐の夜を迎えました。ゴンドラは才蔵の元から逃げ出してしまいます。気づいた才蔵が、風雨の中でゴンドラの名を呼び続けますが、ゴンドラは戻って来ませんでした。
 飛び続け、疲れ果てたゴンドラは、いつの間にかマンダラの墓の前に来ていました。その時、亡きマンダラの魂がゴンドラに語りかけるのです。才蔵を恨まないで…と。そのマンダラの想いが、荒んだゴンドラの心に染み入っていくのでした。
 翌朝、嵐も過ぎ去りました。ゴンドラがいなくなり、意気消沈してがっくりとうなだれる才蔵。慰めの言葉をかける鎌之助。
 が、その時、突然、鎌之助が叫びました。
「お、おい! 見ろ! あそこ!」
 いた! 雄々しく翼を広げたゴンドラの姿がそこにありました。
「ゴンドラ! 帰って来たのか!」
 才蔵はゴンドラのそばに駆け寄り、それはうれしそうにゴンドラを撫でるのでした。

 これから後は、才蔵は常にゴンドラと一緒でした。
 ちなみに、こんな場面もありました。大坂城に入城した後、またすぐ真田館へ帰るという時、幸村が誰かと話をしている最中、後ろにいた才蔵は、主人の話などまるで聞いてなくて、ゴンドラの頭を撫でているのです。(この場面では、才蔵はエキストラのようなものですが、そのエキストラのさりげない演技=人形操作にちょっと感心したものです。)

 話が逸れましたが…
 このゴンドラ登場のエピソードは、終始、才蔵の喜怒哀楽が生き生きと描かれています。ゴンドラが現れて、才蔵がどんなにうれしかったか…。その感情が十分伝わってきます。相手のゴンドラが言葉を話しませんから(レッドは通訳か)、よけいに才蔵の独壇場となった感もありますが。
 反対に、鎌之助はここではずっと傍観者でした。役回りと言えば、わざわざゴンドラの素性を知らせに来たこと。それだってレッドがすればいいことだと思うのですが。
 ただ、そこで気にかかるのが、才蔵の「持つべきものは友」発言です。これを言わせるために、わざわざ鎌之助を同行させたのでしょうか?? …いや、それは考え過ぎでしょう。
 でも、ゴンドラが来てから才蔵は明るくなった気がします。ゴンドラの存在が、それまで「どうでもいい」と考えていた不真面目な才蔵を、いつしか主君への敬愛と勇士たちとの友情を自身の中で素直に受けとめられるようにさせたのではないかと…そう思うのは、わたしの勝手な解釈、錯覚なのでしょうか。

(2007.3.5)

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