年齢が七十歳を過ぎると、肉体的にも精神的にも、老化が加速するのを日々実感する。そして、六十歳ころまではあまり意識しなかった自分の死について思うことも多くなる。自分という存在とはどのような存在なのだろうか、自分という存在が死んでなくなるとはどういうことなのだろうか、自分という存在は一体どこから生じたものなのだろうか、等々、自分の存在に関わる疑問がいろいろと脳裏をかすめる。
そうした状況でもあり、まず、私たちが生存するこの宇宙とはどういうものなのか確認してみたい。
今日、私たちが見ている宇宙は、約百三十七億年前にビッグバンという現象によって生じたものらしい。その膨張は今でも継続していて、いつか引きちぎられてしまうのか、再度収縮に向かうのかは、未知の物質である暗黒物質や暗黒エネルギーの正体やその量の解明に依存しているようである。こうした宇宙の膨張の過程は、CP対称性の破れといった理論によって、反物質よりも物質の方が多くなり、それらが次第に円盤のような形をした無数の銀河を生成させたようである。そして、各銀河の中心には、なんでも吸い込んでしまうブラックホールが存在し、一方、そこからは巨大なジェットが噴出され、宇宙の物質を均一に攪拌しているとのことである。さらに、星の寿命に起因して超新星爆発が起き、それによって 今日の私たちの肉体を形成する酸素、炭素、水素、窒素、カルシウム、リンなどの水素やヘリウムより重たい元素が宇宙空間で作り出されたとのことである。
私たちは、宇宙のなかに無数に存在する銀河系のなかの一つである天の川銀河のなかにある太陽を恒星とする太陽系のなかにある地球という岩石惑星の上に存在している。地球という惑星は、太陽からの距離や地球の大きさや内部構成などから、かなり奇跡的に水の存在や有害な放射線からの防止など、生命の存在に適した環境が維持されたらしい。
古来、人類は、太陽の動きを高い精度で観察記録し、一年の暦を作り日食の予測をしたりもしてきた。今日、宇宙についての解明は格段に進歩している。時間と空間が重力によってゆがむことは相対性理論によって実証されている。さらに、超弦理論と呼ばれる理論によれば、この宇宙は、時間と三次元空間からなる四次元ではなく、もっと多次元の世界であるようである。いつか、私たち人類は、こうした次元の間を通過してワープのような瞬間移動が可能な世界を生きているのかもしれない。量子力学や相対性理論の統合を通して、素数論の応用や量子コンピュータの活用によって、人間は宇宙のなかでどのような存在になっていくのであろうか。
次に、人間の地球上での存在についてふり返ってみたい。地球は太陽系とほぼ同じ約四十五億年前に誕生し、原始生命は約三十七億年まえには誕生していたらしい。シアノバクテリアの大発生により大気に酸素が大量に放出されたり、膜細胞生物とミトコンドリアとが合体したり、カンブリア期には多様な形の生物が大発生したり、地球全体が氷結したり、海中の酸欠状態から地上に生物が上陸しはじめたり、人類よりもはるかに長い期間、この地上を跋扈した恐竜が巨大隕石の衝突に起因して絶滅したりといったさまざまな変遷があったと言われる。
人類の先祖である初期猿人は、約七百万年前くらいにアフリカで誕生し、その後、猿人、原人、旧人などと脳の容量が増大し進化し、約二十万年前に、私たちの直接の先祖である新人、ホモ・サピエンスが誕生したらしい。そして、新人は、ネアンデルタール人と多少融合したりし、かなり短期間のうちにベーリング海峡を渡るなどして、世界中に広まったとのことである。
私たちホモ・サピエンスは、火、道具、言葉、貨幣、宗教、農耕定住生活、統治体制など、さまさまな工夫を通して、大河の流域などに文明を作り、他の生き物とは一線を画した地上で確固たる存在となった。
特筆すべきは、ヨーロッパにおいて十六世紀ころにみいだされた科学の視点だと思う。自然現象の因果関係を客観的に把握する態度は、その後、科学と技術の爆発的な進歩をもたらした。それは、個人を尊重する民主主義の思想をもたらすとともに、産業革命、植民地主義、帝国主義、社会主義革命、二度の世界大戦など、数々の地球規模の社会変革をもたらした。そして、今日の地球社会は、旧ソ連邦の終焉により「歴史の終わり」とも言われたが、今現在は、米中対立の先鋭化などのなかで、格差社会の拡大とともに、技術開発競争、産業経済競争はますますその熾烈さを増している。そうした対立構造の深まるなかで、自国優先主義やポピュリズムが蔓延し、自然環境劣化の深刻化が進み、それに追い打ちをかけるように新型コロナウイルス禍が、世界の混乱に拍車をかけている。
私たちは、二十二世紀に向けて存続していくためには、現状の認識とその課題の理解を、人間という存在の意味を深く問う姿勢を踏まえて行っていくことが必要不可欠だと感ずる。表面的競争に勝つことを第一義とする姿勢からは憎悪と破壊しか生まれない。人間存在を、他の生き物の生存、人間一人ひとりの自由で主体的な精神性、地球の数千万年の歴史などの深い理解を踏まえて考えることを通して、人間の品格が現れるのではないかと思う。
指数関数的に複雑化する今日の地球社会において、人間存在の深くまで踏まえた現状認識には、AIのより進化した活用が不可欠になるだろう。それを実現するためには、人間存在をより深く理解する人たちが政治のリーダーシップを担うことだ。そうした政治体制を作り上げる民主主義の制度は、どのように構築されるべきかも問われなくてはならないだろう。
日本の社会について言えば、日米地位協定にまで踏み込んだ防衛軍事力の見直しが必要になるだろうし、品格を伴う移民の受け入れや人材育成が真剣に対応されなくてはいけないように思われる。
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