メッセンジャー

 どこへ行くにも巨鷲に乗って空を飛んで行った才蔵ですが…マンダラの死後ゴンドラが現れるまでの間、彼は自分の足で歩かなくてはならなくなりました。
 家康襲撃に失敗して仲間とはぐれてしまったのは、ちょうどその間のできごとでした。(→「プライド」参照)この時も、マンダラがいれば才蔵は道がわからず途方にくれることはなかったでしょう。
 運よく鎌之助と出会ったものの、二人で阿弥陀ヶ峰にある太閤秀吉の神廟へ行くことになり、そこへ参拝するには四百八十九段の石段を登らなくてはならないと知った才蔵は、ため息混じりにこう言いました。
「あーあ、マンダラがいればな」

 先日、才蔵が空から味方を救出する場面について書き記しましたが(→「空から来た援軍」参照)、空を飛べるということは誠に便利なことで、味方救出にとどまらず、単なる移送に伝言や報告まで、何かというと巨鷲ゴンドラが使われました。まるでアッシーかメッセンジャーです。
 主君・幸村を乗せて大坂城まで送ったこともありました。
 遠く蝦夷へ佐助と偵察に出かけた時も、ゴンドラに乗って行きました。吹雪の中を才蔵と佐助とリコマップ少年(→「名もなき星たちの光」参照)の三人で乗って、ゴンドラがダウンしちゃったこともあります。
 また、宇喜多秀家を探しに海を越えて八丈島を目指した時も、才蔵と鎌之助とお鶴の三人を乗せてゴンドラは飛びました。

 けれど、巨鷲ゴンドラは乗り物ではありません。生き物です。あまり一度に何人も乗らないでほしいなあと思っていたのは、わたしだけでしょうか?
 いえ、実は佐助も同じことを言いました。
 それは、大坂城天守閣の鯱の目にはめられた翡翠の玉防護のため、才蔵、清海、夢影の三人が城に潜入することになった時のこと。清海と夢影が石牢に監禁され、夢影に思いを寄せる清海が失恋するエピソード(→「勇士の恋の物語」参照)のイントロの場面です。
 才蔵はゴンドラに乗って、清海は大凧に乗って、それぞれ大坂城へ向かいます。では夢影はどっちに同乗しようかという話になった時、佐助がこう言います。
「夢影は清海と一緒に凧に乗って行った方がいいだろう。ゴンドラが疲れてしまう」
 それを聞いた夢影のセリフ。
「ま、佐助さんはいいことを言いますね」
 ここで才蔵が冷やかします。
「やれやれ、また夢影の佐助びいきが始まった」
 で、清海はというと…夢影と二人で一緒に凧に乗って行けることを内心喜んでおりました。
 話がちょっとそれましたが、それたついでに書き記しますと、石牢に閉じ込められた清海と夢影を助けたのは、実はゴンドラが九度山から呼んで来た呉羽自然坊でした。
 二人が監禁されるのを目撃したゴンドラが、急ぎ九度山へ引き返して自然坊をつれて来ます。そして力自慢の自然坊が石牢の扉を開け、二人を救い出すことができました。ここのところ怪力をふるうしか能のない自分に自己嫌悪気味だった自然坊も、ゴンドラのおかげで自信を取り戻すことができたのでした。
 気転というものがあるのですね、ゴンドラには。

 さて、才蔵とゴンドラは、タクシー代わりとしてだけでなく、メッセンジャーとしても盛んに動き回りました。
 大坂夏の陣の折には、後藤又兵衛の死(→「名もなき星たちの光」参照)と茶臼山に残って戦う大助のことを大坂城へ報せに飛びましたが、亡霊道士に阻まれてゴンドラは傷つき倒れてしまいます。が、老医師に姿を変えた魔比達によって回復し、再び大坂城へ向かい、報告が済むとまた茶臼山へ…とまあ、少しもじっとしていられない様子でした。

 もう一つ、才蔵がメッセンジャーとして飛んだエピソードを紹介しましょう。
 それは、佐助と夢影が二人で諏訪湖へ軍用金の捜索に行ったエピソードのプロローグの場面です。
 そこは、恵林尼(佐助の生母ですが佐助はまだそのことを知りません)と小笹(佐助の恋人)のいる曽呂利庵。二人の前に、ゴンドラに乗ってやって来た才蔵が座っています。才蔵は、佐助が仕事で諏訪へ出かけるのでしばらくここへは来られないことを報せに来たのでした。
 ただ、佐助が夢影と二人きりで行ったことは、小笹には言えませんでした。佐助を好いている夢影が行動を共にしていることを、佐助の恋人に話すのは気の毒に感じたからです。ためらい、迷い、才蔵は結局そのことを話さないまま、曽呂利庵を後にしました。
 …わざわざ曽呂利庵への伝言なんて、佐助に頼まれたのかどうか忘れましたが、こんな仕事(?)まで才蔵はしていたんですね。それにしても、ワイルドな才蔵も、女性には気配りがあるんでしょうかねぇ。
 ちょっと印象に残った場面でした。

(2007.5.12)

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